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不動産業界が「アナログ」と言われる理由。不動産テックやデジタル化でどう変わる?

「不動産業界はアナログだ」、業界で働くプレイヤーなら一度は耳にしたことがあると思います。

では、不動産業はなぜアナログなのでしょうか。不動産業界がアナログと言われる理由、その課題を解決する不動産テックの動きについても解説します。

不動産業界がアナログと呼ばれる理由

不動産業界は他業界に比べて、アナログといわれており、様々な業務が従来的なマンパワーに頼らざるを得ない状況です。

総務省が発表している「情報通信白書」には平成26年時点での、各産業のICT活用状況をスコアリングし比較しています。

不動産業界のICT化の進展スコアは5.6ポイントと、他の産業と比較しても低い水準です。

日本経済全体で、IT化やDX化の流れが叫ばれているにもかかわらず、不動産業界は未だにアナログな業態であることが分かります。

2021年2月発表の東京商工リサーチによる調査では、業種別に集計した社長の平均年齢で、不動産業が62.2歳と、集計した全8業種の中で最も高齢でした。

不動産業界の経営者が高齢であることは、IT化や最新の機器やシステムの導入が遅れている1つの要因かもしれません。

アナログな不動産業務上の課題とは

不動産ビジネスの大きな課題は非効率・非生産的な業務による勤務時間の長時間化です。

不動産業の業務は多岐にわたっており、来客対応やメール・電話対応、物件や顧客情報の管理、内見対応、売り上げ管理などは作業量で賄うしか方法がなくなってしまうため、労働時間が長くなってしまいます。

厚生労働省の「週労働時間別雇用者等の推移」では、不動産業・物品賃貸業の雇用者のうち、週で60時間以上の労働をしている割合は、平成19年時点で12.2%、平成25年時点で10.3%と、割合は減少しているものの、他産業と比べて高い割合であることが分かります。

厚生労働省の「週労働時間別雇用者等の推移」より引用

煩雑な業務に加え、ファックスで物件情報をやり取りしたり、手書きで日報を作成したりと時間と手間がかかっていることも、長時間労働を助長しています。これまでの商習慣や無駄の多い業務を、IT化により効率化することで長時間労働化を防ぐことが期待されています。

国内では労働生産性が高い不動産業界だが・・・

就業1時間あたりに生み出す成果を「労働生産性」といいます。

日本における産業別の労働生産性では、不動産業は他産業に比べてとても高い水準です。

(公財)日本生産性本部「生産性データベース」より引用

一見すれば、他産業と比べて労働生産性が高いため、不動産業界は生産性が高いと感じるかも知れません。しかし、不動産業界は1回の取引における取り扱い金額が高いため、労働生産性が高くなっているという点に注意しましょう。

日本生産性本部が2020年5月に発表した「産業別労働生産性水準の国際比較」は、日本と海外の労働生産性を比較したレポートです。

下記の図は、アメリカの生産性水準を横線で”100”として、それと比べて日本の各産業がどれほどの生産性なのかを表しています。

(公財)日本生産性本部「産業別労働生産性水準の国際比較」より引用

日本の不動産業はアメリカの生産性が100とするならば、わずか27.1と全産業のなかでもとても低い水準であることが分かります。

ITツールやテクノロジーの活用が進むアメリカの不動産業界を見れば、日本の不動産業界も、テクノロジーを活用した生産性向上や労働時間の短縮の余地が多く、IT化・DX化の流れは避けられないと考えられています。

業界の課題に挑む不動産テックとは

2014年頃から、日本国内においても不動産業界のアナログな商習慣を問題視する動きが活発になり、「不動産テック」という言葉が注目されるようになりました。

不動産テックとは、不動産とテクノロジーを掛け合わせた造語で、これまでの不動産業における商習慣や業務上の課題を、テクノロジーや情報通信技術によって変革させる新たな不動産サービスや仕組みのことを指します。

不動産テックサービスとは?不動産テックカオスマップから読み解く

(一社)不動産テック協会が独自に集計している「不動産テックカオスマップ」は、日本国内の不動産テックサービスをカテゴライズし掲載されています。

2020年6月に発表された第6版には352の不動産テックサービスが集計されています。

また、各サービスは12の主要分野にカテゴライズされています。

それぞれの分野について簡単に解説します。

仲介業務支援

不動産売買や賃貸の仲介業務における業務の効率化や支援を行うサービスです。

顧客を自動で追客する仕組みや賃貸仲介における物件確認、電子契約サービスなどがラインナップされています。

管理業務支援

不動産管理業務における業務効率や生産性の向上に繋がるサービスです。

賃貸管理ソフトや対入居者やオーナーとのコミュニケーションツール、原状回復工事をはじめとした工事の進捗管理ツールなどがあります。

ローン・保証

専用の用紙での申請や申請からの回答までに時間がかかっていた、ローンや入居審査をテクノロジーによって簡略化するサービスがカテゴライズされています。その他にも個人の与信を自動で算定するものや、賃貸住宅を借りる初期費用を割賦で支払うサービスなどもあります。

クラウドファンディング

一般の投資家から資金を募り、プロジェクトを進めるクラウドファンディングサービスです。特に、不動産特定共同事業法(不特法)を活用したクラウドファンディングサービスは、空き家活用などの部分で注目が集まっています。

価格可視化・査定

AIやビッグデータを活用した、不動産の価格算定や賃料査定ができるサービスです。不動産の価格を算定するための元となるデータをどのように集めているか、算定するためのAIの学習状況などによって、各サービスに違いがあります。また、一般の消費者が自身の持つ不動産の価格を調べられるものから、不動産会社向けに提供しているものもあります。

不動産情報

登記簿や地図情報から、ビッグデータを収集して様々な不動産情報を集めているサービスです。例えば、大量の登記簿情報を収集することで、特定の地域に誰がどのような資産を持っているのかが分かるといったものがあります。

物件条件・メディア

不動産の物件ポータルサイトや、不動産会社向けの情報発信メディアなどがカテゴライズされています。

マッチング

不動産の売主と不動産会社やオーナーと不動産会社、職人と工務店など、不動産に関わるあらゆるマッチングサービスが集計されています。

VR・AR

コロナ禍で非対面・非接触な接客を求められているなかで、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)技術活用の需要が高まっています。自宅にいながら360度カメラで撮影した写真をスマホで見ることで、あたかも内覧しているような感覚になれたり、遠隔での接客時にVR技術を活用した物件提案を織り交ぜたりと、様々な活用法が模索されています。

IoT

IoTとは「Internet of Things」の略称で、「モノのインターネット」と訳されます。家電や住宅設備をインターネットに接続することで、住生活や住環境の向上から遠隔に住む高齢者の見守りなど、目的は多岐に渡ります。

あわせてこちらの記事もご参考ください。

IoTの活用が変える不動産業界の今とこれから【不動産×テクノロジー】

リフォーム・リノベーション

今後、不動産市場において中古住宅の流通とリフォーム・リノベーション市場は大きく伸びると考えられています。そういったなかで、これまで工数管理や工務店との進捗確認などがアナログな方法で進められていました。管理進捗や施主とのコミュニケーションなどをスムーズに行うことができるサービスが掲載されています。

スペースシェアリング

建物のデッドスペースや空室・空き地から、オフィスや駐車場など、様々なものを時間や一定期間で貸し出すシェアリングサービスが集計されています。売る買う・貸す借りるといった既存の不動産取引に縛られない新しい取引形態であり、これまでと違った角度で不動産価値を見直すきっかけとして注目されています。

欧米の不動産テック「PropTech」とは

PropTechとは不動産テックと同義ですが、特に欧米での不動産テックサービスを指します。

なかでもアメリカは、不動産の日本よりもはるかに進んでいます。不動産探しから購入までをオンラインで完結するなど、日本ではまだ法律的にも課題が残る不動産取引のオンライン化なども先進的に取り組んでいます。

特に、「PropTechのGAFA」と呼ばれるZillow、Opendoor、Redfin、Compassの4社を総称した「ZORC」は、PropTechの代表的な企業です。

Zillow アメリカ最大規模の不動産検索サイト

2006年設立のZillowは、アメリカで最大規模の不動産検索サイトを運営しており、アメリカのPropTechを牽引する存在です。

特徴的なの機能として、独自のアルゴリズムを活用することで、アメリカにある1億件以上の物件を価格推定し、公開しています。物件の所在地や過去のデータをもとに所有する物件がいくらで売れるのか査定をするシステムも提供しています。

多くの人が不動産情報を見られるようになることで、安心した不動産取引ができる環境を構築しています。

Opendoor アイバイヤーの先駆け

オンラインで買取再販業を行う会社です。

特徴は、売主がAIを使って住宅価格を査定し、その査定額に納得すればそのまま売却が可能であるという点です。

AI技術によって定期制価格を素早く行うことで、従来のビジネスモデルに比べて決済までが非常に早いのが特徴です。こういったテクノロジーを活用した買取事業者をiBuyer(アイバイヤー)と呼び、Opendoorはその先駆けとなる会社です。

Redfin プラットフォームと不動産業の両立

独自に住宅価格を推計する機能を持った不動産売買プラットフォームを運営するとともに、不動産売買も行っています。

MLS(REINSのアメリカ版)と連動しているため、常に膨大な量の最新情報を閲覧することができます。

Compass 不動産エージェントとのマッチング

アメリカでは、不動産営業担当(エージェント)の社会的地位が、医者や弁護士と同格といわれています。つまり、不動産を取引する際には、どの不動産エージェントに依頼するかが非常に重要になります。

「Compass」は不動産の取引を行いたい人が、優秀なエージェントを見つけることができるプラットフォームです。ビッグデータとAIを活用することで、依頼主に最適なエージェントや物件をレコメンドするサービスも実装されています。

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