不動産業界の人手不足はなぜ深刻化しているのか?原因とIoTによる解決策を紹介

不動産業界の人手不足はなぜ深刻化しているのか
不動産業界の人手不足はなぜ深刻化しているのか

不動産業界が直面する人手不足は、もはや一時的な現象ではありません。離職者が入職者を上回り、就業者の高齢化が進む中、従来型の採用強化だけでは根本的な解決に至らない課題になっています。

様々な統計データをもとに人手不足の実態を確認しつつ、ITやIoT技術を活用した省人化施策について考えてみましょう。

不動産業界で人手不足が急激に深刻化している背景

まずは不動産業界の人手不足について、様々なデータをもとにその実態を考えてみたいと思います。

事業所当たりの従業員数が少ない

公益財団法人不動産流通推進センターの「2025 不動産業統計集」によれば、不動産業における一事業所あたりの平均従業者数は3.9人でした。また、さらに詳細を見てみると「建物売買業、土地売買業」で6.8人、「不動産代理業・仲介業」で4.6人、「不動産賃貸業」4.3人、「不動産管理業」6.6人と、それぞれを見てみると僅かに増加していますが、全産業平均の11.2人に比べると、低いことがわかります。

離職率の高さと若手不足という問題

厚生労働省の「令和6年 雇用動向調査結果」によると、不動産業は入職者数11.33万人に対して、離職者数が12.18万人と、離職者のほうが8500人多い状況です。

さらに深刻なのは、業界全体の高齢化です。国土交通省の「不動産業ビジョン2030」によると、2015年時点で不動産業の就業者のうち約5割が60歳以上と、高齢層の比率が非常に高くなっています。また社長年代の構成比を見ると、不動産業は61.7歳と最も高い水準で、後継者不在率は68.9%に達しています。内部育成による若手人材の確保が滞れば、将来的な後継者不足はさらに深刻化する可能性が高いでしょう。

少子高齢化と業界特有の労働環境

日本全体が直面する少子高齢化の波は、不動産業界にも容赦なく押し寄せています。総務省統計局が公表した「人口推計」によると、2025年9月時点の日本の総人口は1億2319万2000人で、前年同月比58.7万人減となりました。

これは若手労働者層の絶対数の減少を意味しています。不動産業界だけでなく、あらゆる業界で20代から30代の採用が難しくなっており、転職市場は激戦状態です。新卒採用においても、就職活動の開始時期が早まっていることで早期に内定を出す企業が増加する一方、入社までの期間が長期化することで内定辞退の増加も課題となっています。

さらに不動産業界特有の労働環境が、人材確保をより困難にしています。入学や就職、転勤の多い時期には新居探しや引越しの需要が増え、どうしても残業が増えてしまいます。プライベートを重視したい世代にとって、拘束時間が長い労働環境は大きなマイナス要因です。加えて、「不動産業界=長時間労働」というイメージがインターネット上で拡散されることで、新たな人材確保に悪影響を及ぼしています。

なぜ不動産業界は人を確保できないのか

人手不足の背景には、不動産業界が長年にわたり抱えてきた構造的な問題があります。単に「人が足りない」という表面的な現象の裏には、業界の本質的な課題が横たわっています。

営業依存・アナログ業務体質の限界

不動産業界は今なお、営業力に大きく依存したビジネスモデルが主流です。物件の案内、契約書類の作成、顧客とのやり取りなど、多くの業務がアナログな方法で行われており、IT化の遅れが目立ちます。手書きの書面でやり取りする場面が多く、個人情報を扱う際のセキュリティ対策の難しさから、デジタル化への移行が進みにくい状況にあります。

1人の担当者が膨大な量の書類作成や物件に関わるデータの管理・やり取りといった業務をすべて任されている企業も少なくありません。業務の属人化が進み、担当者が不在になると業務が停滞するという脆弱な体制になっています。

採用難易度の上昇と条件改善だけでは解決しない理由

不動産業界の法人数は増加の一途を辿っています。先出の「2025 不動産業統計集」によれば、令和6年度における不動産業の法人数は39万2110であり、平成17年度の28万4693と比較して10万7417業者増加しました。全産業に占める割合は12.9%に達しており、事業者数の増加が人材の奪い合いを激化させています。

不動産業は宅建業免許を取得し供託金などを支払うことで比較的簡単に立ち上げることが可能です。参入障壁が低いことで、次から次へと新しい不動産会社が増え、働き手の需要が増加し続けています。

このような状況下では、給与や福利厚生などの条件改善だけでは人材確保は難しいでしょう。不動産業は平均年収が高いイメージを持たれがちで、確かにトップセールスマンになると年収1000万円以上と、一部には高収入を得る営業担当者もいます。しかし、成果主義による収入の不安定さや景気変動による事業の不安定性といったマイナスイメージも強く、安定志向の若手には敬遠される傾向にあります。

外注やM&Aだけでは根本解決にならない背景

人手不足への対応策として、業務のアウトソーシングやM&Aによる人材確保を検討する企業も増えています。定型的な業務を切り分けて外部に委託すれば、採用活動の負担をかけずに人手不足を補えます。事務作業をフリーランスに委託し、自社の社員はコア業務に専念するといった業務分担は、一定の効果を上げています。

しかし、これらの手法には限界があります。アウトソーシングを活用する場合、ノウハウや経験則、データなどの蓄積が必要な業務では、自社での運用ができるような仕組みづくりが必要で、結局は社内のリソースを消費することになります。M&Aで人材を確保しても、企業文化の違いや業務プロセスの統合には時間とコストがかかります。

根本的な問題は、業務量そのものが減っていないことです。人を増やしても、外注しても、こなすべき仕事の総量は変わりません。市場が拡大し、法人数が増え続ける中で、従来と同じ方法で業務を進めていては、いつまでも人手不足から抜け出せないでしょう。

人手不足が引き起こす業務負担の実態

現場では、限られた人員で増大する業務をこなそうとする中で、さまざまなひずみが生じています。過重労働と業務品質の低下という悪循環が、さらなる離職を招いています。

仲介・管理業務の過重労働

不動産の仲介業務は、顧客の希望に合わせて動く必要があり、土日や夜間の対応が常態化しています。物件の案内、契約書類の準備、金融機関との調整、引き渡しまでの一連の流れを、限られた人員で回さなければなりません。繁忙期には休日出勤や長時間残業が避けられず、ワークライフバランスの確保が困難です。

賃貸管理業務も同様に負担が大きくなっています。入居者からのトラブル対応は24時間365日待ったなしで、緊急の設備故障や近隣トラブルなどに即座に対応しなければなりません。オーナーへの報告業務、家賃管理、契約更新の手続きなど、定型業務に加えて突発的な対応が重なり、担当者の負荷は増大する一方です。

電話対応・現地対応・鍵管理にかかる工数

現場で特に工数を取られるのが、電話対応と現地対応です。物件に関する問い合わせ、内見の予約、設備の不具合に関する連絡など、1日に何十件もの電話がかかってきます。電話対応に追われて本来の業務が進まず、結果として残業時間が増えるという悪循環に陥っています。

内見対応も大きな負担です。顧客の都合に合わせて現地に出向き、物件を案内し、質問に答えます。1件の案内に1時間以上かかることも珍しくなく、複数の内見が重なれば1日が終わってしまいます。移動時間も含めると、非効率な時間の使い方を余儀なくされています。

鍵管理も煩雑な業務の一つです。複数の物件の鍵を管理し、内見のたびに持ち出し、返却後に記録を残します。鍵の紛失や取り違えがあれば大きなトラブルに発展するため、慎重な管理が求められます。スペアキーの作成、オーナーとの鍵の受け渡しなど、細かな作業の積み重ねが業務を圧迫しています。

属人化による業務品質のばらつき

情報保護の観点から、多くの業務が特定の担当者に集中する傾向にあります。顧客情報、物件情報、契約の進捗状況など、重要な情報が個人のノートやパソコンに保存され、共有されていません。担当者が休暇を取ると業務が止まり、退職すればノウハウごと失われてしまいます。

業務の進め方も担当者によって異なり、サービスの質にばらつきが生じます。ベテランと新人では対応のスピードや提案力に差があり、顧客満足度に直結します。しかし、人手不足の中では十分な教育や引き継ぎの時間が取れず、新人が一人前になるまでに時間がかかります。その結果、ベテラン社員への負担がさらに増すという悪循環が続いています。

不動産DXこそが人手不足の課題を解決する

人手不足への対応は、もはや人を増やすという従来の発想では限界に達しています。デジタル技術を活用して業務そのものを変革する「不動産DX」こそが、根本的な解決への道です。

人を増やすのではなく「業務量を減らす」という発想

不動産DXとは、デジタル技術を活用して業務プロセスやビジネスモデルを革新し、企業の競争力を高めるための重要な取り組みです。単に技術を導入するのではなく、企業の文化や働き方を見直し、顧客価値を最大化することを目指します。

従来の人手不足対策は、「足りない人員をどう補うか」という考え方が中心でした。しかし、労働人口が減少し、採用競争が激化する中では、この発想自体を転換しなければなりません。重要なのは、「そもそもその業務は人がやる必要があるのか」「デジタル技術で代替できないか」という視点です。

電話DX・オンライン対応の重要性

電話対応の効率化は、不動産DXの中でも即効性の高い施策です。AIチャットボットによる24時間自動応答を導入すれば、よくある質問への対応を自動化でき、人的リソースを削減できます。顧客は時間を気にせず問い合わせができ、担当者は重要な業務に集中できます。

SMS(ショートメッセージサービス)やチャットツールを活用した予約リマインドや顧客フォローも有効です。電話での確認作業を減らし、文字情報として記録が残るため、言った言わないのトラブルも防げます。特に若い世代では、営業担当者との対面コミュニケーションよりも、メッセージングアプリでの連絡を好む傾向があり、顧客ニーズにも合致しています。

オンライン内見システムの導入も大きな効果を生みます。VR技術を活用すれば、顧客は自宅からでも物件の内部を詳しく確認でき、現地での内見回数を減らせます。担当者の移動時間や日程調整の負担が軽減され、1日に対応できる顧客数を増やすことができます。

IoT・スマートホームが果たす役割

IoT(Internet of Things)・スマートホームサービスの導入も、不動産業界の業務効率化につながります。センサーやデバイスを駆使して建物のリアルタイムな状態を監視し、入居者の生活の質を向上させると同時に、管理業務の負担を大幅に削減できます。

スマートホームとは、住宅に組み込まれたテクノロジーを活用して、生活環境をより効率的で快適なものにする仕組みです。入居者はスマートフォンやタブレットから家の中のさまざまな機能を遠隔で管理でき、照明、空調、鍵、監視カメラなどをコントロールできます。これらの機能は入居者の利便性を高めるだけでなく、不動産会社の業務効率化にも直結します。

スマートロックで内見・鍵管理を自動化

物件案内

スマートロックは、内見業務と鍵管理の工数を削減します。従来は担当者が現地に出向いて鍵を開け、顧客を案内する必要がありましたが、スマートロックがあれば遠隔で解錠でき、顧客が一人で内見することも可能になります。

時間指定で自動的に解錠・施錠する設定もでき、内見予約の時間に合わせて鍵を開けておくことができます。顧客は自分のペースでじっくりと物件を確認でき、担当者は移動や立ち会いの時間を削減できます。複数の内見が同時に進行しても対応可能で、1日に案内できる物件数を大幅に増やせます。

鍵の物理的な管理からも解放されます。スペアキーの作成や保管、貸し出し記録の管理といった煩雑な作業が不要になり、鍵の紛失リスクを大幅に低減できます。セキュリティ面でも、誰がいつ入室したかのログが自動的に記録され、トラブル発生時の追跡が容易です。

入居者アプリによる問い合わせの効率化

入居者専用のスマートフォンアプリは、問い合わせ対応を効率化する強力なツールです。よくある質問をFAQとして掲載しておけば、電話での問い合わせが減り、担当者の負担が軽減されます。ゴミ出しのルール、共用部の使い方、契約内容の確認など、定型的な質問はアプリで自己解決できます。

チャット機能を活用すれば、電話よりも気軽に問い合わせができ、時間を選ばずやり取りができます。担当者側も、電話対応のように即座に応答する必要がなく、業務の合間に返信できます。テキストベースのやり取りは記録が残るため、後から確認でき、言った言わないのトラブルも防げます。

設備の不具合報告もアプリ経由で写真付きで送信できるようにすれば、状況把握が早くなり、適切な対応がスピーディーに行えます。入居者は24時間いつでも報告でき、不動産会社は営業時間外の電話対応から解放されます。