スマートホームの未来を考える。これから生まれる新しい技術やビジネスモデルとは

様々な分野でIT化やDX化が進んでいます。
それは、住環境の例外ではありません。近年、徐々に普及の兆しを見せているのがスマートホームです。
スマートホーム市場の現在、消費者の意識変化を分析し、これから生まれてくる新しい技術やビジネスモデル、これからのスマートホームの方向性を解説します。
スマートホーム市場の現在と未来
市場調査や意識調査の結果を利用してスマートホームの現状と未来、スマートホームの普及の方向性を分析します。
この記事では、「スマートホーム」と「スマートハウス」、「IoT住宅」や「コネクテッドハウス」等の用語が用いられています。
IoT、コネクテッド(connected:接続された)とはいずれもモノとインターネットが接続されて利用者に便利さを提供することを言います。ホームとハウスとは、ハウスが「家」というモノに注目しておりホームはその家に暮らす人や状態に注目していることの違いです。
スマートホームの市場予測
マーケティング&コンサルテーション事業を行なう富士キメラ総研は、スマートホーム関連市場を調査し、その結果を「スマートホーム市場総調査 2018」として公表しました。
この調査ではスマートホームを構築する要素として「プラットフォームサービス」「個別サービス」「スマートコアデバイス」「スマートルーム」「スマートキッチン/サニタリー」「スマートウェルネス」「スマートセキュリティー」「技術/プラットフォーム」の8カテゴリー、45品目を対象として市場規模の推移、製品・サービス化動向、技術動向などの調査・分析を行ない、将来を予測しています。
ここでは、スマートホームの基点となるスマートスピーカーの国内市場に注目します。
スマートスピーカー市場では大手IT企業をはじめ2017年後半から相次いで製品が投入されました。
さらに2018年になり国内系列のメーカーからも積極的な参入があり国内市場は2017年比2.9倍が見込まれる急拡大をし、今後も声をかけるだけで家電の操作やサービスが利用できる利便性により市場は拡大していくと予測される一方で、音声アシスト機能がスマートスピーカーだけでなく他の家電製品にも取り込まれていくことが見込まれることからスマートスピーカー単体での伸長率は徐々に鈍くなると予測されています。
■スマートスピーカー国内市場
スマートホームに対する消費者の意識の変化
次に、PwCコンサルティングが公表した「コネクテッドホーム・スマートデバイス市場意識調査2020」を見てみます。
調査結果で注目すべきは次の5点です。
- 「スマートデバイス」関連のキーワードに対する認知度は上昇傾向にあること
- コネクテッドホーム導入を検討中の層が約3割、スマートデバイスの導入を検討中の層が約4割存在すること
- 情報収集の手段として家電量販店を活用する傾向にあること
- 消費者の関心が健康管理、世帯収支、防災・危機管理、娯楽・エンターテイメントについて特に向いていること
- コネクテッドホームやスマートデバイスを知人に勧めたい人が増えてきていること
詳細を抜粋して以下に紹介します。
前回調査(2018年度)と比較し、「ホームオートメーション(家の状態監視・コントロール、自動空調制御、オートロックなど)」、「デジタル監視カメラ」などの認知度が上昇しています。
「スマートスピーカー」「スマート照明」「スマートセキュリティー」などを中心に全ての項目で認知が広がっていることがわかります。
コネクテッドホームの導入を検討中の層(「今後2年以内に導入する予定がある」「時期はわからないが導入したい」の合計)は31.3%となっており、前回調査時(20.5%)から約11ポイント上昇しています。
また、「現在使っている」「かつて使っていた」人は合計で16.1%であり、前回調査時(5.9%)から約10ポイント上昇しています。
スマートホーム普及の方向性
スマートホームは次のステップに進もうとしています。
スマートホーム第一段階としてHEMS(Home Energy Management System)によって電気の消費が見えるように変化しました。
これによりメーターを見ながらエネルギーの消費を利用者が調整できるようになりました。
この段階ではモノとモノとが独立しての存在です。
第2段階としてスマートスピーカーとモノ、モノとモノとがインターネットでつながることにより、エネルギーの消費を自動で調整できるようになります。
家の中にいても、外出していても家電を操作でき、セキュリティー管理が行なえます。
また、遠くにいても高齢者やペットの見守りができるようになりました。
第3段階は、AIとモノとがつながります。
IoTで生活に関わる情報を収集し普段の生活に合わせてモノの制御を行なってくれるのです。この段階では操作のために話しかけるのはスマートスピーカーだけではありません。
エアコンでも照明でもかまわなくなります。
このことを先の市場調査は予測しています。
電気はもちろんガスの制御も可能ですから、外出先から帰ったら部屋は涼しくお風呂には暖かいお湯が沸かされていますから家に帰るとすぐにお風呂に入ることも可能です。
夜中にトイレを頻繁に使うようであれば、その時間を予測しトイレを暖かく、廊下の照明をほのかに点灯させてくれます。
また、冷蔵庫にあるものからレシピを作ることはもとより、普段の食生活と冷蔵庫の在庫管理をすることで足らないものを判断します。その情報が販売店と連動することにより欲しいものがほしいタイミングで自動的に配達されることが可能になります。
このように、スマートホームは家の中だけにとどまらず、社会とつながるようになり、社会とつながることで社会の課題の解決にも貢献することになります。
スマートホームの利便性と安全性からスマートホームはますます普及していき、社会との連携から他業種からも参入が相次ぐことが予測されます。
スマートホーム・IoTの未来とは
それでは、ここでもう少し具体的にスマートホームやIoTの未来を展望し、政府が構想するスマートシティやスマートモビリティなどの新しい技術や取り込みについて紹介します。
スマートホームやIoTの未来
IoT家電や各種スマートセンサーを設置することで生活している人の健康状態や日々の行動を収集・記録し可視化します。
センサー付のスマートベッドで睡眠時の呼吸などのデータを収集します。
また夜中にトイレに行く頻度のデータを収集することや朝起きてからの行動パターンを蓄積していきます。
次にAIが収集・記録したデータを分析してみましょう。
AIは分析した結果をもとに生活者にアドバイスを行ない、生活者の利便性を高めるためにIoT家電の制御を行ないます。
- 快適な室内環境を保つためにIoT家電が自動で調節
- 健康管理のための情報を伝え、改善行動のアドバイスを発信
- 離れて暮らしている家族などへ生活者の状態を伝えるより細かな見守り活動
スマートシティ
政府は今、統合イノベーション戦略2020などに基づきスマートシティの推進に取り組んでいます。
コロナ禍で進んだデジタル化やAI、IoTをはじめとする各種の技術開発が著しく進展していることを背景にこれらの技術をまちづくりに取り入れることで、市民生活の質の向上、都市活動の効率性の向上をはかることが今後のまちづくりの基本となるテーマだとみているためです。
支援策のひとつとして、先行してスマートシティに取り組んでいる地方公共団体や官民連携の協議会から汲みあげた具体的な事例をふまえ、スマートシティの意義や必要性、導入効果、またスマートシティ化の進み方をまとめたガイドブックを内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省が合同で作成しました。
スマートシティ – Society 5.0 – 科学技術政策
スマートモビリティ
経済産業省と国土交通省は連携して「スマートモビリティチャレンジ」を開始します。
「スマートモビリティチャレンジ」は、将来の自動運転社会の実現を見据えて新たなモビリティサービスの社会実装を目指した動きです。社会における移動課題の解決と地域の活性化を目的として、自治体と企業の協働による意欲的な挑戦を促す新プロジェクトとして注目されています。
「スマートモビリティチャレンジ推進協議会」を立ち上げ、地域ごとにシンポジウムを開催するなどして地域や企業等の取組に関する情報を共有し、具体的なニーズやソリューションに関する情報の共有を促進します。
また、先進的な取り組みを進める「パイロット地域」があり、事業計画の策定や事業性の分析を行なっています。スマートモビリティのあり方や、最善の方法や最良の事例を抽出し横断的な課題を整理する活動を支援します。
さらに国土交通省では「スマートモビリティチャレンジ」とも連携し、全国各地のMaaS等新たなモビリティサービスの実証実験を支援し、地域の交通サービスの課題解決に向けたモデル構築を行う「新モビリティサービス推進事業」を実施するとしています。
トップページ | Smart Mobility Challenge|スマートモビリティチャレンジ
MaaS(Mobility as a Serviceモビリティ・アズ・ア・サービス)とは、複数の交通機関(鉄道、バス・タクシー、旅客船・旅客機、カーシェア・シェアサイクルなどのサービス)を、インターネットを利用して連携した一つのサービスとして結び付けることで人の移動を大きく変えることを意味します。
スマートホームは新しいビジネスモデル・ビジネスチャンスを生み出す
スマートホーム市場が今後拡大することで、自動車メーカー、家電メーカー、不動産会社などが連携し、様々な産業がスマートホームを契機にして新しいビジネスモデルやビジネスチャンスを生み出していきます。
自動車メーカーの取り組み
自動車メーカーは住宅の外側からスマートホーム化をはかります。
プラグインハイブリッド自動車(PHV)や電気自動車(EV)を活用することにより、電気を自動車に蓄積し住宅の電源に利用します。
電気料金が安い時間帯に自動車に蓄電することにより低料金で電気を利用できることになります。また、万一の災害時にも非常用電源として利用できます。
スマートハウスは、「Home Energy Management System(HEMS)」を活用することで、太陽光発電システム、燃料電池、蓄電池の住宅向けの三大電源を中心に住宅での効率的なエネルギー消費を目的としています。まず電力消費量の見える化を実現し、次に家電製品や電気自動車、電力会社の電力網などと連携することで、さらなる効率的なエネルギーの運用が期待されています。
自動車メーカーと住宅メーカーがタイアップして両者が連携したスマートハウスを販売していきます。
近年政府や各地方自治体は次世代自動車の購入資金を補助していることも自動車メーカーがスマートホームに参入する後押しをしています。
家電メーカーや家電量販店の取り組み
一方で家電メーカーは、住宅の中からスマートホーム化を図ります。
家電製品同士がつながることで省エネに貢献します。
家電メーカーのグループ企業が一体となってスマートホームの実現に向けて活動しており、住宅設備やHEMSの開発、太陽光発電パネルの開発、家電製品や蓄電池の開発に取り組んでいます。
また、家電量販店と住宅メーカーとの協業も広がっていきます。
先に紹介した市場調査においても、スマートホーム化の相談窓口は直接見て触ることができて相談できる家電量販店が活用されています。
スマートホームは住宅内で使用される家電を中心とした電力消費を効率よく使用できる仕組みです。
そのため、家電を広く扱う家電量販店はスマートホームと結びつきやすい特長をもっています。
様々な産業がスマートホームを契機にしてビジネスモデル・ビジネスチャンスを生み出している
家は建設会社が建てるものでしたが、スマートホームが普及することにより、建設会社だけでは成り立たなくなっていきます。
先の2例で見るように家と自動車との連携があり、家電から家を見るような変化があります。これからは、モノとモノとのつながりが家の中で納まらずに家を出て社会とつながっていきます。
スマートホーム家電や家の中に設置された各種センサーやカメラなどにより家の中の状態が管理されます。
その情報がインターネットを通じていろいろなサードパーティーのサービスやSaaSと接続することによって、見守りやヘルスケア、ホームセキュリティ、宅配などさまざまサービスと連携することができます。
「SaaS(Software as a Service)」とは、クラウド上におかれたソフトウエアのことをいいます。ソフトはクラウド上にあるためパソコンやスマホなど使用するデバイスを選ばずインストール不要でどこからでもソフトが利用できます。
たとえば、留守をしている間に家の片づけをして欲しい時には、留守をしている情報がインターネットを通じて片付け業者に通知が届き、出動することができます。
また、健康状態の情報を管理することで高齢者の見守りをより精密に行なうことができるようになります。先に紹介した冷蔵庫の在庫から必要な食材を自動的に届けてくれるサービスとも連携できるようになれば、さらに人々の役に立つことができます。
大手通販会社は国外で過去の履歴から消費者が購入する商品を予測して配送するサービスの特許を取得しています。国内では、過去のデータから在宅可能性が高い日時を自動的に予測して配達することで再配達を防ぐ取り組みが始まっています。
このような取り組みに家の中にあるセンサーが連携すればもっと荷物を受け取りやすくなり、物流サービスの負担軽減やCo2の削減により環境問題にも役立ちます。
このようにスマートホームが普及することにより、住宅や家電に関連するサービス以外にも大きなビジネスチャンスが生まれてきます。