スマートホームの新規格「Matter」を解説。スマートホーム市場に与える影響とは

2022年10月4日に無線通信規格標準化団体(Connectivity Standards Alliance)は、「Matter(マター)」バージョン1.0と「Matter」認定プログラムをリリースしました。
今回は、「Matter」とはどういったものなのか。「Matter」が必要になった背景やスマートホーム市場にどのような影響があるのかについて解説します。
スマートホームの新規格「Matter」とは?
では、改めてスマートホームの新規格となった「Matter」とはどういったものなのでしょうか。
「Matter」とは?
「Matter」とは、Apple、Google、AmazonをはじめとするアメリカのIT企業280社以上が参加している無線通信規格標準化団体(Connectivity Standards Alliance:旧ZigBee Alliance)が策定したスマートホームのためのIoT共通規格のことをいいます。
「Matter 1.0」は、異なるメーカーのスマート家電が互換性をもち、安全で信頼できるものにするための規格です。
さらに、Matterに対応していればインターネットに接続できないときでも、スマート家電を利用することができるようになります。
Matter導入までの経緯
Matterは当初2020年の終わりにリリースされる予定でしたが、翌年に延期され、さらに22年夏に延期、そして今回正式にリリースされたものです。
延期された理由は、Matterに対応するデバイスやプラットフォームを増やしてリリースまでにスマート家電をスムーズに連携させる環境を整えるためだとされています。
今回Matterの仕様が公開されたことによって、Matter規格に参入する企業がさらに増えることが予想されています。
Matterが導入された背景
スマートホームなら声だけであらゆる操作ができると期待してスマートホームを導入してみたものの、現状では、スマート家電ごとに専用のアプリを起動しなければ操作できないことが多いのが実情です。
また、「Apple Music」で音楽を聞くとき、「Amazon Primevideo」で映画を見るときなど、提供している企業が違えばそれぞれに対応したスマートスピーカーに、それぞれのコマンドで話しかけなければ操作できません。
さらに、スマート家電のなかには、ネットワークと連携させるために製品とあわせてハブが別途必要なことがあります。
この仕様も製品や企業によって異なっているので、スマート家電の数だけハブを用意しなければならないこともありえます。
このようなことでは、とても「スマート」とは言えず、希望するスマート家電を自由に選択できないこともあり、利用する消費者にとって不便なことでした。
そこで、消費者の煩雑さを解消するためにはスマートホームの規格を各企業が統一する必要性があると判断されて今回のMatter規格の設定に至ったものです。
「Matter」によってスマートホーム業界の何が変わる?

では、「Matter」によってスマートホーム規格が各社共通になるとスマートホーム市場にどのような変化があるのでしょうか。消費者がどのように便利になるのかについても考えてみましょう。
メーカーの垣根がなくなる
Matterによって異なる企業のスマート家電でも相互に連携できるようになります。
例えば、Amazonのスマートスピーカーに話しかければGoogleのデバイスや、GEのスマート電球が操作できるようになるのです。
これまでは、「相性」があう機器かを考えながらスマート家電を選ばなければならなかったのが、Matterによってメーカーの垣根がなくなり、もっと自由にスマート家電を選べるようになります。
Matterによる規格統一でどうなる?
Matter以前にも「ZigBee(ジグビー)」という規格がありました。
ZigBeeを例にとって、Matterになるとどのようなことができるか説明します。
AmazonのEchoシリーズにはZigBeeに対応している機種があります。Philipsのスマート照明「Hue」もZigBeeに対応しています。
このため、本来Philipsのスマート照明Hueをネットワーク経由で操作するためには「Hueブリッジ」が必要なのですが、ZigBeeに対応しているEchoを使えばHueブリッジを使わなくてもHueの操作ができるのです。
IKEAのスマート照明「トロードフリ」でもZigBeeに対応しているので同じようなことができます。トロードフリをネットワーク経由で操作するには別にゲートウェイを追加しなければならないのですが、ゲートウェイがなくてもEchoから操作ができます。
逆にEchoがなくても、Hueブリッジが既にあるならHueブリッジをトロードフリのゲートウェイとしても利用可能です。
このように統一された規格があれば、スマート家電同士の接続がとてもスムーズにできるので、既に利用しているメーカーに限定されずにスマート家電を追加することができるため、消費者にとってうれしいことですし、メーカーにとっても消費者の選択肢が広がることで市場の拡大が期待できるというメリットがあります。
Matter対応機器
照明・電気、スマートプラグ、ドアロック、スマートブラインド(シェード)、ガレージドア、エアコンなどの幅広い機器にMatterが対応するように予定されています。
セキュリティカメラやロボット掃除機などは今回予定されていないのですが、近いうちに対応されるでしょう。
Googleは「Nest」に「Fast Matter」機能を搭載し、AppleはiOS16およびIPadOS16でMatterをサポートすると発表しています。
このように新規格Matterに大手プラットフォームが参加することで、Matter規格に準拠したスマート家電メーカーが多く参加することになり、消費者の選択肢がますます広がっていくことが期待できます。
「Matter」でさらに大きくなるスマートホーム市場
現在、スマートホーム市場の国内および世界の状況はどのようになっていて、今後どのように予測されているのか、また、Matterによってどのような変化が予想されるかを解説します。
国内予測
IDC Japanが2020年4月4日に発表した国内IoT市場予測によると、2021年のユーザー支出額は5兆8948億円を見込み、2026年には9兆1181億円に達すると見通しています。
2021~2026年の年間平均成長率は(CAGR)は9.1%と予測しており、中でもスマートホーム等の個人消費者のIoT支出が2023年以降の市場を牽引すると予測しています。

IDC Japan「国内IoT市場、23年以降はスマートホーム、店舗内リコメンド、テレマティクス保険など牽引」より
世界市場の予測
下記のグラフは総務省が公表した令和2年度の市場予測資料です。
スマート家電を操作するためのスマートスピーカーが注目されつつあり、Informaによる2020年以降もAIスピーカー(スマートスピーカー)市場の拡大が見込まれているとの予測を紹介しています。

次にこちらは、LIVING TECH協会が2022年9月7日に公表した資料です。
コロナ禍をきっかけにスマートホーム市場の成長が加速されており、2022年には1,157億米ドルに達すると予測されています。
Statistaの『Smart Home Report 2021』では、セグメント横断の「統合」がスマートホームにおける事業成功のカギだとしています。
自宅をスマートホーム化し、スマート家電を音声操作したい、同時にスマートホーム化に対する安全対策をしたいと考える消費者が増えているなかで、さらに、自分たちが利用している機器を他のプラットフォームに接続したいというニーズが高まりつつあると分析しています。
そうした事情でスマートホームマーケットでは、機器間の互換性という課題が浮上してきたのです。
その課題への対応がMatterであり、『Statista Digital Markets Outlook』では、「これらシームレスな環境の提供や、その他5Gの普及も相まって、2023年以降のスマートホーム市場を大きく後押しする可能性がある。」としています。

世界最大の統計調査データプラットフォームを提供する独Statista、LIVING TECH協会のメディアパートナーシップを締結
Matter規格が今後のスマートホーム普及を後押しする
今まではスマートホーム化を試みても、機器同士の相性によって希望する機器を断念しなければならないことがありました。
Matterによってメーカー間の垣根がなくなり、スマート家電同士がシームレスにつながります。
スマート家電を接続性によって選択しなければならないことを誰も望んでいません。
自分の好みの機能、品質、デザインで選びたいものです。
Matter規格によってスマートフォンのメーカー、スマートスピーカーのメーカー、スマート家電のメーカーで制限されることがなくなり、好みの機種、好みのメーカーから自由に選択できるようになります。
このように消費者の自由度が高まることで、スマートホーム化は今後ますます普及していくことでしょう。