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不動産業界の電子契約はどうなる?不動産契約が電子化されることのメリットとは

 

2021年5月12日にデジタル改革関連6法が成立し、同年9月にはデジタル庁が発足されることからも、これからの日本社会では、デジタル・DX化に向けた様々な対応が必要になってきます。その象徴となっているのが、電子化に向けての「紙の書類の廃止」と「押印の廃止」です。   デジタル改革関連法のうちの「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」により、押印(22法)と書面(32法)の廃止に関して合計48の法律(6法律は押印と重複)を一括して改正しています。   では、不動産業界にはどのような影響が起こり得るのでしょうか。今回は、不動産業界における電子契約について考えます。

不動産業界で浸透する電子契約サービス

電子契約とは、契約書の作成、契約の締結、保管、管理までの契約に関わる全てのことをデジタル化するものです。   離れた場所にいる契約当事者間や仲介をする不動産会社との間が、オンラインで結ばれることでスムーズに契約をすることができるようになります。   従来の紙で契約書を作成する場合は、目の前で記名押印をするので、当事者が間違いなく契約をしたことを確認できます。しかし、電子契約では、離れた場所にいる相手方が本当に本人なのか、本人自身が記名をしたのかが分かりません。   そのため、電子契約を行なうためには、サービス提供会社が契約書の真正を担保すること、契約書に記名する者が間違いなく本人であることを担保する必要があります。その仕組みは後ほど紹介します。   宅地建物取引業法第35条には重要事項説明書は書面の交付が必要だとされており、また同法第37条には売買または賃貸に関する契約について書面によることが定められています。 この「書面を交付しなければならない」規定があるために、これまでは不動産に関する契約の電子化をすることができなかったのです。   しかし、今回のデジタル化法案可決以前でも宅地建物取引業に規制がないことがらについては、さきがけて電子化のサービスをしている不動産業者があります。

電子契約の仕組み

契約書の真正を担保し、本人が作成したことを担保する仕組みとして電子契約書を作成する場合は「電子署名」を利用します。   電子署名は「暗号化」と「復号」にパスワードを利用することにより、本人であることを担保し、また契約書の真正を担保する仕組みです。   「電子認証局」という第三者機関があり、この電子認証局が秘密鍵・公開鍵を発行します。 署名する人が秘密鍵を使って署名を暗号化し、受け取る側が公開鍵を使って復号することにより確認できるようになっています。

厚生労働省「e-Gov電子申請事前準備マニュアル」より引用

  紙の契約書であれば、契約の当事者全員がそれぞれ契約書に記名押印をして、各自が1部宛所持するのが一般的でした。 しかし、契約の当事者全員が電子署名を保持しているわけではありません。 会社は業務に関わるいろいろなことがオンライン化されているなかで、電子署名を保持する機会が多いでしょうが、個人の場合はそれぞれが電子署名を保持していることは期待できません。 このため、契約当事者全員が電子署名ができるシステムもっていなくてもメールのやりとりで本人確認をして、契約当事者全員が契約を承諾した段階でサーバー上にある契約書で契約を進めることができるサービスを提供している会社があります。   また、電子署名をした文書には、署名した「時刻」が記録されます。しかし、この記録された時刻は使っているパソコンやサーバー上の時刻なので、常に正しい時刻を記録しているとは限りません。   そこで、正しい時刻を契約書上に記録する「タイムスタンプ」サービスを提供している会社もあります。 このタイムスタンプサービスによって、その時刻に文書ができあがったこと、そして、その時刻以降に改変されていないことを確認できます。 こういった電子契約サービスは、不動産業界ではどのように活用されているのでしょうか。

賃貸契約の更新

宅地建物取引業法第37条には賃貸借契約の更新にかかる合意書については書面を交付する必要を規定していません。そのためデジタル化法案が可決される前であっても電子化が可能でした。

駐車場の契約

宅地建物取引業法第37条に「宅地又は建物」に関する売買、または賃貸に関する契約を書面でするように定めていましたが、駐車場はこの宅地ではないと解釈されています。 そのため、この駐車場の賃貸契約についてもデジタル化法案以前でも電子化が可能でした。

デジタル改革関連法で不動産業界はどう変わる?

デジタル改革関連法により2022年5月中旬までには契約の電子化が実現します。 契約を電子化できることにより、契約を対面でする必要がなくなります。対面契約がなくなることにより、時間と距離の制約がなくなります。

「契約締結」の場面がなくなる

紙の契約書と電子契約の決定的な違いは「契約締結」という場面(イベント)がなくなることです。 紙の契約書の場合は、売主と買主双方が立ち会って契約したり、仲介をしている不動産会社が立ち会ったりして、お互いの顔を見ながら契約書に記名押印をすることが一般的でした。   そのため、あらかじめ場所と時間を決めておく必要があり、当事者が都合を合わせることが大きな負担となる場合もありました。 しかし、電子契約の場合は、契約をする時間も場所も決めておく必要はなく、当事者それぞれの都合が良い時に契約できるメリットがあります。   一方で、電子契約はお互いの顔が見えず拘束される気持ちも少ないため、契約の応答にルーズになってしまう恐れがあります。契約の相手方が契約の応答をしない場合に、いつまで待てば良いのか、相手がいつ対応するのか、それともしないのかが分からないことが想定されます。 民法(民法525条)では、「承諾の期間を定めないでした申込は申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。」と定めています。このため、ずっと契約の応答を待つ中途半端な状態で放置される恐れもあります。   これを防止するためには、電子契約では特に「契約を承諾する期限」を決めておくことが大事になります。

遠隔地の取引の活発化

現在でも、投資用の物件は遠隔地の物件を遠隔地の当事者同士が売買をする事例はよくあります。投資用の物件の場合、実際に現地を見る内覧はほとんどの場合行なわれていません。   IT重説の社会実験に係るアンケート調査の結果、居住用の物件では全て内覧を行なっていた反面、投資用など他の目的の場合は約9割が内覧をしていません。また、この社会実験に対応した97.2%が投資用の物件との結果です。   個人を含む売買取引おける ITを活用した重要事項説明に係る社会実験 (実施経過報告)   一方、電子化が許可されていない現状では、遠隔地にそれぞれ居住している当事者に、遠隔地の不動産会社が実際に出かけたり、郵便で書類をやりとりしたりする必要があります。   そのため、時間も手間も費用もかかっていたのですが、重要事項説明も契約締結もオンラインで行なうことができれば、とてもスムーズに運びます。   契約の電子化によって、距離による制約がなくなることにより、今後ますます遠隔地の取引が活発になることが予想されます。

電子契約のメリットとデメリット

電子契約と紙の契約書とを比較してのメリットとデメリットを整理しておきましょう。

メリット

  • 紙の契約書に貼付する印紙が不要になる
  • 印刷の手間、郵送の手間、郵送料などが不要になる
  • 紙の契約書のように保管場所をとらなくなる
  • 火事や水害などで契約書が失われる心配がなくなる

デメリット

  • 電子化するためのシステムを導入するための費用が必要
  • サイバー攻撃による情報漏えいの心配がある

電子契約サービスは不動産業界に浸透している?

2021年7月17日不動産テック7社・1団体は、不動産事業者に対して行ったアンケート「不動産業界におけるDX推進状況」の結果を発表しました。   同調査では、その1年前である2020年6月に、不動産テック6社・1団体が実施した「不動産業界のDX意識調査」と比較しながら、コロナ禍における1年間で急速に進行した、不動産業界におけるDXの現状について考察しています。   ※DX(Digital Transformation / デジタルトランスフォーメーション)とは、経済産業省の定義によると「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジ タル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」 を言います。

不動産プレーヤーも電子契約活用に本腰

上記アンケート結果から 「DX推進をしている」と回答した不動産事業者は昨対1.5倍に伸びています。 「DX推進の目的」は約85%が業務の効率化を目指しているためです。

「電子契約へ移行したい」回答者は83%あり、「既に移行準備中」の事業者はそのうちの30%います。

「DXの年間予算」が100万円以上は50%以上であり、18%の回答者は1,000万円以上となっておりDX投資が本格化の傾向がみられます。

このようなことから不動産プレーヤーも電子契約を活用することに本腰を入れていることがわかります。

消費者も電子契約には高い関心

不動産テックサービスを提供するイタンジが行なった賃貸借契約における電子契約の利用意向についてアンケート結果が公表されています。   賃貸入居の契約時に「電子契約を選択したい」エンドユーザーは73%   これによると今回のデジタル化法案によって賃貸契約をする際に「電子契約をしたい」と回答したエンドユーザーは73%となっていて、2020年に行なった同様の調査では57%だったことと比べて、エンドユーザーの意識が電子契約利用に大きく傾いていることがわかります。

不動産取引の電子化に先がけて、重要事項説明をオンラインで行う社会実験が国土交通省によって行なわれているところですが、利用後のアンケート結果によると今後の利用意向については、「利用したい」が約6割で、「利用したくない」はごく少数(2.4%)との結果になっています。

電子化を進めるための環境の整備

このように、不動産会社も消費者も電子契約に高い関心を持っていますが、電子契約を円滑にすすめるためには、そのための環境を整えることが必要です。   先の国土交通省のIT重説に係るアンケート結果でも機器のトラブルを認知したものが、不動産会社側で1割あり、利用者側では2割ありました。いずれも映像や音声に関してのトラブルです。   また、重要事項説明が聞き取りにくかったという答えが3割弱ありました。 このように電子契約を運営する会社側と消費者側では利用する機器に違いがあること、また普段なじみがない不動産の取引について、消費者の理解をどのように深めていくかが課題になります。   また、契約書の電子化を運営する不動産会社が独自で電子化システムを構築することは費用面でも人材面でも難しく、既存のいろいろな会社が提供している電子契約書サービスを利用することになると思われます。   それぞれの会社が提供しているシステムについて、本人確認を利用者の電子署名が必要とするものからメールのやりとりで本人確認をするものなど様々あり、改ざん防止のためにタイムスタンプを用意しているシステムもあります。   いずれにしても、電子契約によっても契約成立の真正担保、本人確認の真正担保、契約書の改ざん防止や保管、管理の課題は紙の契約書と変わりありません。
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