IT重要事項説明を解説。流れやルールも徹底解説

不動産業界でIT化・デジタル化の最たる例として取り上げられているIT重説、徐々に、一般消費者にも認知され始めているなかで、適切な活用方法が求められています。
今回は、改めてIT重説の仕組みや導入方法、流れについて紹介します。
IT重説とは
「IT重説」とは、その文字通り「IT:Information Technology(情報通信技術)」を利用して「重要な事項を説明」することです。
これまで、不動産の賃貸契約や売買契約には、先立って宅地建物取引士が顧客の面前で重要事項説明書を読み合わせながら重要事項の説明を行なうことが義務付けられていました。
重要事項説明業務がオンラインでも可能になった背景には、日本政府による経済成長への期待があったと言われています。
2013年に閣議設定された「世界最先端IT国家創造宣言」はITを活用することにより、サービス産業の生産性の改善と向上また女性や高齢者等の雇用促進、労働供給源(働く人)の量的拡大をもたらし、経済再生を目指すことを目的としています。
政府は、バブル崩壊やリーマンショックによる日本経済の閉塞感からの脱却を目指し「財政政策」、「金融政策」に続く第三の矢としての「成長戦略」の一環としてITを活用する方針を打ち出しました。
この閣議決定に基づき2017年10月1日から不動産の賃貸契約においてITを利用して重要事項説明ができるようになりました。
並行して売買についてもITを利用した重要事項説明が可能かどうかの社会実験を重ねたうえで2021年4月から、不動産売買においてもITを利用した重要事項説明が可能となったのです。
2021年7月現在の時点では、重説業務をIT化する上で、重要事項説明書は文書で作成する必要があります。しかし、2020年9月から不動産賃貸契約について重要事項説明書の電子化についての社会実験が行われているところであり、2021年3月からは不動産売買についても電子化の社会実験が始まりました。
国交省「不動産の売買取引における重要事項説明書等の書面の電子化に係る社会実験を開始・賃貸取引における書面の電子化に係る社会実験の実施期間を延長」
近い将来、重説のペーパーレス化が完了し、全てがオンラインで完了するようになると予想されています。これにより、業務の効率化が図られ、いっそうの生産性の向上が期待されています。
賃貸業務でのIT重要事項説明のメリット
急な辞令による遠方への転勤などによって、わずかな時間で賃貸物件を探し入居を必要としている顧客などに対し、IT重説は非常に有用です。不慣れな土地であれば適当な家を探すのに数日かかり、一度自宅に帰ってからまた休みをとって重要事項説明と契約のためにわざわざ遠隔地まで出向くのは時間も費用も大変な負担になってしまいます。
また、例年2月や3月の賃貸繁忙期では、首都圏や都心部へ地方から上京してくる学生や新社会人もたくさんいます。
こういった顧客も、わずかな時間で物件を決め、契約しなければなりませんが、重要事項説明が遠隔で行うことで、手間も時間も節約できます。
売買業務でのIT重要事項説のメリット
売買においては、賃貸と同様遠方からの物権契約の他にも、不動産投資の現場などでの活用も考えられます。
遠隔地で良い投資物件が見つかった際など、これまでは仲介・販売している不動産会社が現地の会社の場合には、買主がわざわざ現地まで行く必要がありました。場合によっては仲介を担当する不動産会社が買主の自宅まで重要事項説明や契約のために出向くといったことも行われていました。
しかし、これでは遠隔地の不動産を買うことを煩わしく感じる投資家も多いでしょう。
IT重説が利用できれば買主も仲介する不動産会社も安心して遠隔地の売買を行なうことが可能です。IT重説を利用することによって、不動産の流通量が促進され、市場が広がることが期待されています。
IT重説を行なう際の注意点
IT重説は時間や場所の制約がないことから便利ですが、次のことに留意して行なうことが必要です。
- 重要事項の説明は対面による方法しかなかったのですが、IT重説によることも可能になりました。
顧客にとっては選択肢が増えたのですが、IT重説だけを押し付けることがあってはいけません。また、顧客の意向を確認する際は、IT重説の可否について書面等の記録として残る方法をとることが後日のトラブルを回避するために望ましいと考えられています。
- 個人情報保護の観点から考えれば当該取引物件の貸主や売主等の関係者からも同意を得ておくことが望ましいでしょう。
- 的確に契約の相手方に対して重要事項説明を実施する観点から、IT重説を実施するまでに、相手方の身分を確認し、 契約当事者本人(又はその代理人)であることを確認することが必要です。
本人であることの確認は、公的な身分証明書(運転免許証など)で行ないます。
IT重説に必要なもの・流れ

IT重説をするために宅地建物取引士は次のことを確認することが義務付けられています。
- 説明の相手方の手元に重要事項説明書等があることを確認すること
- IT環境を確認すること
- 相手方の映像や音声を取引士側の端末等で確認できること
- 取引士側の映像や音声を説明の相手方の端末等で確認できる こと
- 宅地建物取引士証をオンラインで確認してもらうこと
- 何らかの理由で映像が見にくくなったり音声が聞き取りにくくなった場合はIT重説を中止すること
IT重説に必要機材・環境
IT重説はオンライ上で画像や音声のやりとりを行ないますので、次のような環境が整っている必要があります。
利用する端末はパソコンでもスマートフォンまたはタブレットでもかまいません。
ZoomやGoogleMeat等のテレビ電話(会議)システムを利用します。
パソコンではアプリをインストールする必要がないことが多いですが、iOSやandroidでは事前にアプリをインストールする必要もあるため、事前に顧客に通知することをお勧めします。
- セキュリティの確保
重要な個人情報も含まれるやりとりになるために、セキュリティの確保を心がける必要があります。
事業者側はもちろんのこと、顧客に対しても無料のWi-Fiスポットなどからのアクセスは避けるといったアナウンスを行いましょう。。
- なるべく大きな画面のディスプレイ
IT重説では、はじめに宅地建物取引士証を提示することが法律で定められています。
また、建築図面や用途地域の地図等を示して説明をすることがあるため、小さな画面のスマホでは確認をしづらいことも考えられます。顧客には、可能な限り大きなディスプレイやタブレットなどを用意してもらうことや、明瞭に画面に映っているかといった確認を行いましょう。
- カメラ
宅地建物取引士側だけの映像が見られるだけではなく、顧客の映像も取引士側で見ることができなければなりません。IT重説のために高解像度のwebカメラを購入する必要はありませんが、事前にレンズを拭き取って綺麗な状態を保ちましょう。
- マイクとスピーカー
双方向で音声のやりとりをする必要があります。
IT重説の流れ
まず、IT重説を行なうためには事前に宅地建物取引士が記名押印した重要事項説明書及びその他説明に必要な資料が顧客に届いている必要があります。
そして、IT重説は次のような流れで行われます。
- 取引士が自分の取引士証をカメラにかざす
- 顧客にカメラに映っている取引士の顔と取引士証の顔が同じかを確認してもらう
- 取引士が顧客に、取引士証に記載されている取引士の名前、登録番号を読みあげてもらう
- 重要事項説明書に基づいて物件説明を行なう
IT重説に録画義務はある?
IT重説を検討している不動産会社のよくある質問として、IT重説は録画しなければならないのか、というものがあります。
先に答えを伝えると、IT重説だからといって、録画義務があるわけではありません。
しかし、後日のトラブル防止のために重説の様子を録画しておくことは有用な方法です。
録画をするにあたり注意が必要なことは次の事項です。
- 録画・録音する場合には、利用目的を可能な限り明らかにして、不動産会社と顧客との間で双方了解のもとで行うこと。
- 説明中に、録画や録音をすることで記録が残るのは適切でないと判断される場合には、録画や録音を中止すること顧客に伝えて中断すること。
- 不動産会社が録画や録音をして記録を残す場合には顧客の求めに応じて、そのコピーを提供すること。
- 不動産会社が取得した録画や録音の記録は、個人情報の保護に関する法律にのっとった管理が必要です。
期待されるIT重説で不動産業界は変わる?
IT重説によって、不動産業界が便利に変わるかもしれないという期待は、業界内だけではなく、一般消費者にもあるようです。
実際にどのような期待があるのか、また実際に活用している事例の調査結果についても紹介します。
一般消費者から認知され始めているIT重説
IT重説は、徐々に一般消費者にも認知され始めています。
不動産会社向けにサービスを提供しているサービシンクではIT重説について意識調査を行った結果を公表しています(データ引用元:「【第2回】IT重要項目説明の認知と意向調査を実施いたしました」)。同調査は、2017年10月と2019年5月の2回行われ、第1回と第2回の結果を比較しています。
これによると、IT重説を知っている人は、1回目調査の13%から2回目調査では20%に増えていました。

また、「自分がIT重説を利用しますか?」との問い合わせには1回目の調査では43%だったのに対し、2回目調査では56%の人が利用したいと回答しています。IT重説の認知が広まっり、その便利さを理解した消費者が増えたことから、利用を希望する人も増えていることが伺えます。

不動産業務の現場で、IT重説は上手く機能している?
IT重説は、不動産業務の現場で上手く機能しているのでしょうか。
国土交通省は、2015年から2017年までのIT重説の社会実験期間中にIT重説を受けた消費者に対し、アンケートを行っています(IT重説実施直後のアンケート結果)。
同アンケートでの、IT重説の利用者(消費者)の年齢層は20代が36.1%で一番多く、59.1%が初めて重要事項説明を受けた人でした。
先日したとおり、現段階では、重要事項説明書は文書にしてIT重説に先立って顧客に渡しておく必要があります。事前に全て読んだ人は54.6%で、一部だけ読んだ人と合わせると86.8%の人が事前に目を通しており、そのうちの98.5%の人が重要事項説明の前に内容を理解している結果になりました。
IT重説によるメリット
対面と比べて威圧感がないため質問しやすかったとする人が42.0%いたことはIT重説のメリットといえるでしょう。
また、店舗を訪問する必要がない点を84.9%が評価しています。
録画、録音されて記録に残る点に安心を感じる人が15.0%いました。
IT重説のデメリット
機器のトラブルが16.3%の人に生じており、そのうち音声トラブルが61.5%、映像トラブルが27.3%ありました。
機器やシステムを使うための環境や知識がないと準備等の負担が大きいとする人が24.9%います。
IT重説の今後の課題
政府のIT化政策と現下のコロナ禍とあいまり、宅地建物取引士と顧客が直接面会する必要性が問われつつあるなかで、IT重説の利用は今後はさらに広まっていくと考えられています。
しかし、先述の国土交通省のアンケート結果を見ると普段からITに慣れている消費者かどうかで、印象は大きく変わるようです。
IT重説の普及のためには、不動産会社によるIT不慣れな人のためのフォローが重要になってくると考えられます。
時間が取れない方や遠隔地であるために賃貸や購入をためらっている方もIT重説を利用できることによって負担がなくなり、契約がスムーズになることで、より不動産市場が広がり、活性化されていくことが期待できます。