IoTの普及率。世界と比べて日本では普及しないと言われる理由

日本ではIoTの普及率はどれくらいなのでしょうか。
海外と比較として、日本はIoT・スマートホームの普及は進んでいるのでしょうか。IoTの普及が進まない理由についても考えてみましょう。

IoTとは何か

まず、IoTとはどういったものなのか、その仕組みや技術について改めて解説します。

IoTの定義と概要

IoT(Internet of Things)とは、「モノのインターネット」を意味します。様々なモノがインターネットに接続され、データを収集・交換することで、新たな価値やサービスを生み出すことを目的としています。IoTは、センサー、通信機器、クラウドコンピューティングなどの技術を組み合わせることで実現されます。

IoTの概念は1999年にアメリカで提唱され、その後、技術の発展とともに急速に普及が進んでいます。IoTの活用分野は多岐にわたり、産業分野では工場の自動化や在庫管理の効率化、生活分野ではスマートホームやウェアラブルデバイスなどが代表的な事例として挙げられます。

IoTの仕組みと技術

IoTシステムは、大きく分けて3つの要素で構成されています。

  1. IoTデバイス:センサーやアクチュエーター(動作装置)などのデバイスがデータを収集し、制御を行います。
  2. ネットワーク:IoTデバイスで収集されたデータをクラウドに送信するための通信ネットワークです。Wi-FiやBluetoothなどの無線通信技術が用いられます。
  3. クラウド:収集されたデータを保存・分析し、AIによる処理を行います。分析結果に基づいて、IoTデバイスの制御や新たなサービスの提供が行われます。

IoTを実現するためには、これらの要素を連携させるための技術が必要になります。代表的な技術として、MQTT(Message Queuing Telemetry Transport)やCoAP(Constrained Application Protocol)などの通信プロトコル、エッジコンピューティングなどが挙げられます。

IoTの活用事例

IoTの活用事例は、産業分野と生活分野の両方で見られます。

産業分野では、スマートファクトリーと呼ばれる工場の自動化や効率化が進んでいます。機械設備にセンサーを取り付け、稼働状況や異常の検知を行うことで、生産性の向上や予知保全が可能になります。また、在庫管理や物流の最適化にもIoTが活用されています。

生活分野では、スマートホームが代表的な事例です。家電製品がインターネットに接続され、スマートフォンから遠隔操作ができるようになっています。また、ウェアラブルデバイスを用いた健康管理や、スマートシティにおける交通・エネルギー管理など、生活の様々な場面でIoTが活用されつつあります。

日本ではIoT家電の普及率はどれぐらい?

日本におけるIoT家電の市場は毎年成長しており、今後も拡大が続くと予測されています。

しかし、世界と比べると、日本におけるIoT家電の成長率と普及率は遅れをとっています。

ここからは、2019年~2023年までのIoT家電の動向とIoT家電が普及している背景について、詳しく解説していきます。また、2030年はIoTデバイスがどの程度増えているのかについても、紹介していきます。

世界と日本におけるIoT家電の販売実績と普及率

IT専門の調査会社であるIDCJapanによると、日本におけるIoT家電の予測出荷台数は、2023年で約1,353万台と発表しています。

2019~2023年の年間平均成長率は11.8%で、市場の拡大は続くと予想されています。

ただし、世界全体での年間平均成長率は16.9%なので、日本の市場成長は遅れているようです。

野村総合研究所の調べによると、2019年時点での日本のスマートスピーカーを保有している世帯は約7.6%で、2025年には約39%に上昇すると予測されています。

一方、アメリカでは成人における普及率が2019年時点で25%を超えているため、こちらも日本のIoT家電の普及率はまだまだ低いという結果でした。

日本でIoT家電の普及が遅い理由については後述しますが、今後日本でもIoT機器やスマートホームの需要は高まってくると考えられおり、市場も拡大していくと見られています。

アメリカのIoT普及率についてはこちらで詳しく紹介しています。
関連記事:スマートホーム先進国のアメリカ、その普及率や具体的なサービスを紹介

日本でIoT家電の需要が高まっている背景

日本でIoT家電への需要が高まっている理由は、生活利便性や住環境の向上だけでなく社会的な問題も背景にあります。

男女共同参画白書(平成30年)によると、2017年の共働き世帯は1980年の約1.9倍に増加しています。夫婦のお互いが家にいる時間が減ることで、家事の負担を減らすためにスマート家電を導入するニーズが増えているのです。

また、総務省の「親族世帯数に占める核家族化世帯数の比率の推移」によると核家族世帯も将来的に増加していくとされています。

2015年時点では全世帯の85.4%が核家族であったのが、2035年には89.0%まで増加する見込みです。

遠隔地に住む両親の健康状態を把握するために、見守り型のIoT家電を導入するケースも増えています。

高まるIoT家電への需要には、日本が抱える社会的な課題も要因になっているのです。

2030年のIoTデバイス数

世界の金融市場データや情報サービスを提供するIHS Markitによると、全世界のネットワークに接続されたIoT機器の数は、2017年の約270億個から2030年には約1,250億個と、5倍近く増加すると予測しています。

また、2017年からの15年間で、全世界でやり取りされるデータ量の年平均成長率は約50%になる見通しです。

IoT化への急速な動きは、原材料から生産、流通、消費に至る全ての市場に影響を与えています。

これは、人間と機械や情報など相互にやり取りをする方法の変化が絶えず進化していることを示しています。

IoTがもたらす社会的影響

IoTが普及することで、社会的にどのような影響を与えるのでしょうか。

産業分野におけるIoTの活用

先述したように、IoTは産業分野に大きな影響を与えています。工場ではIoTを活用することで、生産ラインの自動化や効率化が進み、生産性の向上や不良品の削減につながっています。また、設備の稼働状況をリアルタイムで監視することで、予知保全が可能になり、突発的な故障による生産停止を防ぐことができます。

物流分野では、IoTを用いた在庫管理や配送の最適化が進んでいます。倉庫内の在庫をセンサーで自動的に把握し、需要予測に基づいた最適な在庫量を維持することができます。また、配送トラックにIoTデバイスを取り付けることで、リアルタイムの位置情報や運行状況を把握でき、効率的な配送ルートの設定が可能になります。

生活分野におけるIoTの活用

IoTは私たちの生活にも大きな影響を与えています。スマートホームでは、家電製品がインターネットに接続され、スマートフォンから遠隔操作ができるようになっています。エアコンや照明、家電製品などを外出先から操作でき、帰宅時に快適な環境を整えることができます。また、スマートスピーカーを使った音声操作により、手を使わずに家電の操作が可能になっています。

ウェアラブルデバイスを用いた健康管理も、IoTの活用事例の一つです。スマートウォッチなどのデバイスで心拍数や歩数、睡眠状況などを計測し、データを分析することで、ユーザーの健康状態を把握できます。また、医療分野でもIoTの活用が進んでおり、遠隔診療や服薬管理などに役立てられています。

IoTがもたらす社会的課題

IoTの普及は、利便性の向上や生産性の改善など、様々なメリットをもたらす一方で、社会的な課題も生み出しています。

一つは、セキュリティの問題です。IoTデバイスがインターネットに接続されることで、サイバー攻撃のリスクが高まります。IoTデバイスの脆弱性を突いた攻撃により、個人情報の流出や機器の誤動作などが引き起こされる可能性があります。

もう一つは、プライバシーの問題です。IoTデバイスが収集する様々なデータには、個人の行動や嗜好に関する情報が含まれています。これらのデータが適切に管理されない場合、プライバシー侵害につながる恐れがあります。

また、IoTシステムの運用には、専門的な知識を持った人材が必要になります。IoT人材の不足は、IoTの普及を妨げる要因の一つとなっています。

日本の住宅でIoTの普及が難しい理由

先述したように、日本の住宅でIoTの普及が送れていますが、その理由について考えてみましょう。

IoT製品の中には中古物件への導入が難しい場合や、そもそもIoT製品を導入するメリットが少ないケースもあります。

中古物件への導入が難しいIoT家電もある

IoT家電の中には、中古物件への導入が難しいものもあります。

IoT家電はインターネットに接続されている必要があるので、大前提としてインターネット環境が整備されていない物件では使用できません。

また、エアコンやインターホン、給湯器など自分では導入が難しいIoT家電もあります。

自分で取り付けられない場合は、専門の業者に取り付けをしてもらわなければなりません。中古物件では新築時とは違い、既存の製品を取り外す必要があるため、工賃は高くなる傾向があります。

その他にもスマートロックを取り付けるドアの型が古い場合は対応できないケースや機器を収納するスペースがないため不格好になってしまうといったこともあるため注意が必要です、

日本の賃貸物件でIoTが普及しない理由

賃貸物件の場合は、入居者の意向だけでは導入できないIoT製品があります。

エアコンや給湯器などの備え付けの設備や共用部のものなどは、オーナーや管理会社に決裁権があるからです。

IoT機器の導入するための費用は、物件のオーナーが負担するケースがほとんどです。そのため、導入に前向きではないオーナーも多いです。また、導入で負担したコストを回収するために家賃が上がる可能性もあります。

IoT製品が普及しているアメリカと比べると、日本は犯罪率が低く住宅の面積が狭い傾向にあります。

日本の狭い住宅事情や犯罪発生率を考慮すると、IoTの設備を導入しても入居者はあまりメリットを感じられません。日本の賃貸住宅ではIoT導入によるメリットが少ないので、不動産のオーナーや管理会社はIoT製品への設備投資に対して前向きな人は多くありません。

IoTのセキュリティと課題

IoTが普及しない要因として、IoTサービスを利用する上でのセキュリティリスクや課題があります。

IoTデバイスのセキュリティリスク

IoTデバイスは、インターネットに常時接続されているため、サイバー攻撃のリスクが高くなっています。IoTデバイスの多くは、セキュリティ対策が十分ではなく、脆弱性を抱えている場合があります。攻撃者は、これらの脆弱性を突いてIoTデバイスに不正アクセスし、データの窃取や改ざん、機器の誤動作などを引き起こす可能性があります。

また、IoTデバイスが大量に感染してボットネットを形成し、DDoS攻撃(サーバに大量にアクセスして、正常なサービス提供を妨げる行為)に利用されるケースも報告されています。感染したIoTデバイスが、攻撃者の指示に従って大量のトラフィックを発生させ、ターゲットとなるサーバーやネットワークを麻痺させてしまうのです。

IoTシステムのセキュリティ対策

IoTシステムのセキュリティを確保するためには、多層的な対策が必要になります。

まず、IoTデバイスの開発者は、セキュアな(安全な)ソフトウェア開発プロセスを採用し、脆弱性を作り込まないようにすることが重要です。また、出荷後も定期的なソフトウェアアップデートを提供し、新たに見つかった脆弱性に対処することが求められます。

また、IoTシステムの運用者は、適切なアクセス制御や暗号化などのセキュリティ対策を講じる必要があります。不要なポートを閉じたり、強力な認証方式を採用したりすることで、不正アクセスを防ぐことができます。また、ネットワークの分離やファイアウォールの設置により、IoTデバイスへの攻撃を防ぐことも重要です。

IoTシステム全体を監視し、異常を検知する仕組みを整備することが望まれます。不審な通信やデバイスの異常動作を早期に検知し、対処することで、被害を最小限に抑えることができます。

IoT普及におけるプライバシーの問題

IoTデバイスが収集する様々なデータには、個人の行動や嗜好に関する情報も含まれています。これらの情報が適切に管理されない場合、プライバシー侵害につながる恐れがあります。

たとえば、スマートスピーカーは、ユーザーの音声データを常時収集しています。この音声データには、個人の会話内容や生活音が含まれており、プライバシーに関わる情報が含まれている可能性があります。また、ウェアラブルデバイスが収集する健康データや、スマートホームが収集する生活パターンのデータなども、プライバシーに関わる情報といえます。

これらのデータが、ユーザーの同意なく第三者に提供されたり、不適切に利用されたりすることは、プライバシー侵害につながります。IoTサービスの提供者は、データの取り扱いについて適切なポリシーを定め、ユーザーに丁寧に説明することが求められます。また、データの匿名化や暗号化など、プライバシー保護のための技術的措置を講じることも重要です。

IoTを導入するためのステップ

IoTを実際に導入する際の流れや考え方について紹介します。

IoT導入の目的と戦略の明確化

IoTを導入する際は、まず目的と戦略を明確にすることが重要です。IoTを導入することで、どのような価値を生み出すのか、どのような課題を解決するのかを明らかにする必要があります。

製造業であれば、IoTを活用して生産性の向上や品質管理の高度化を目指すことが考えられます。小売業であれば、需要予測の精度向上や在庫最適化を目的とすることができます。

IoT導入の目的が明確になったら、次はその目的を達成するための戦略を立てます。どのようなIoTソリューションを導入するのか、どのようなデータを収集し活用するのか、どのようなスケジュールで進めるのかなどを決定します。

IoTシステムの設計と構築

IoT導入の目的と戦略が決まったら、次はIoTシステムの設計と構築を行います。IoTシステムの設計では、IoTデバイスの選定、ネットワーク構成、クラウドサービスの選定などを行います。

IoTデバイスは、用途や要件に応じて適切なものを選ぶ必要があります。センサーの種類や精度、バッテリー寿命、通信方式などを考慮して選定します。また、既存の設備にIoTデバイスを取り付ける場合は、設備との互換性にも注意が必要です。

ネットワークは、IoTデバイスからクラウドまでのデータ伝送を担います。無線LANやモバイル回線などの選択肢があり、通信距離や速度、コストなどを考慮して最適なものを選びます。また、セキュリティにも十分配慮し、暗号化や認証などの対策を講じることが重要です。

クラウドサービスは、IoTデバイスから収集したデータを保存・分析するために利用します。AWS、Microsoft Azure、Google Cloud Platformなど、各社のIoT向けサービスが提供されています。必要な機能や性能、コストを比較し、最適なサービスを選択します。

IoTシステムの構築では、選定したIoTデバイス、ネットワーク、クラウドサービスを組み合わせ、システムを実装します。データ収集や分析、可視化などの機能を実装し、動作検証を行います。また、セキュリティ対策の実装も重要です。

IoT運用体制の整備

IoTシステムの構築が完了したら、運用体制を整備します。IoTシステムの運用には、専門的な知識を持った人材が必要になります。社内にIoTの知見を持った人材がいない場合は、外部のパートナー企業や専門家の支援を受けることも検討します。

運用体制を整備する際は、以下のような点に留意します。

  • 運用業務の定義と役割分担の明確化
  • 運用手順やマニュアルの整備
  • 監視・アラート体制の構築
  • 障害時の対応手順の整備
  • 定期的なメンテナンスの実施
  • セキュリティインシデントへの対応体制の構築

IoTシステムの運用は、従来のITシステムの運用とは異なる部分が多くありますたとえば、IoTデバイスの管理やファームウェアのアップデート、大量のデータ処理、リアルタイム性が求められる処理など、IoT特有の運用業務に対応する必要があります。

また、IoTシステムはビジネスに直結するため、可用性や信頼性が非常に重要になります。システム停止による業務への影響を最小限に抑えるため、冗長化や災害対策にも十分に配慮することが求められます。

IoTの普及は、ビジネスや社会に大きな変革をもたらしつつあります。一方で、セキュリティやプライバシー、人材不足などの課題も指摘されています。これらの課題を解決しながら、IoTの導入を進めていくためには、企業や政府、教育機関など、様々なステークホルダーが連携し、オールジャパンで取り組んでいくことが重要だといえるでしょう。

IoTが普及した社会像と政府の取り組み

IoTを普及させるために、日本政府は5Gの開発を進めています。

膨大なデータをやり取りして多数のIoT機器を同時接続することは、従来の4Gではできないからです。

ここからは、5Gの開発計画とIoTが社会に普及した将来像について解説していきます。

IoTを普及させるには5Gの展開が不可欠

IoTを普及させるには、5Gの展開が不可欠です。

今後ネットに接続される機器は、スマホなどの通信機器よりもIoT機器の方が圧倒的に多くなると予測されているからです。5Gとは「第5世代移動通信システム」のことで、4Gと比べると超高速・超低遅延・多数同時接続といった特徴があります。

従来の4Gでは、家電や自動車などが全てインターネットにつながったとすれば、接続数が上限を超えてしまいます。また、自動運転車などのリアルタイムな通信が不可欠な技術は、遅延による問題もあり実用化ができない状況でした。IoTの普及には、膨大な通信量をカバーできてリアルタイムな通信ができる5Gの整備が不可欠です。

日本政府が発表している5Gの普及に関する指針

令和2年版の「情報通信白書」によると、今後の5Gエリア展開について開発計画の審査基準が定められています。

具体的には2018年から5年以内に5G基盤展開率を50%以上とし、2年以内に全都道府県で5G高度特定基地局の運用を開始することとされています。

携帯電話事業者が提出した開設計画によると、4社の計画を合わせた全国5G基盤展開率は98.0%です。

これは、5年後には日本全国の事業可能性があるエリアほぼ全てに、5G基盤が展開される予定であることを示しています。

IoTが社会に普及した将来像

令和2年版の「情報通信白書」によると、今後の日本はデータ主導型の超スマート社会に移行していくとされています。

IoTから収集された膨大なデータをもとにサイバーフィジカルシステム(CSP)が進展し、様々な社会課題の解決と経済成長が期待されます。CSPとは現実(フィジカル)世界で収集された膨大なデータを、仮想(サイバー)空間で定量的に分析することで効率化を進めるシステムのことです。

自動運転に関してはドライバーの経験や勘ではなく、外的な数字を合わせた客観的なデータをもとに自動車を制御します。自動運転の技術が進歩していくことで、人間が運転するよりも安全な機能になるとも考えられています。

また、どこにいてもオフィスにいるのと同じ環境で仕事ができるようになります。

離れた場所にいる上司や同僚、取引先とリアルな体感でコミュニケーションができます。

居住地を問わずに業務を継続できるだけでなく、出張や旅行の移動時にも支障なく業務をこなせるようになります。デスクワークのみならず工場勤務やサービス業でも、ロボティクスやアバターを通して自宅にいながらの勤務が可能になるでしょう。