介護領域のIoT市場規模はどれくらい?補助金や在宅介護の負担軽減についても紹介

介護領域でIoT機器の活用が進んでいます。
市場規模や導入にあたっての補助金活用の事例などから、介護業界におけるIoT・システム活用の重要性について考えます。
介護領域で活用が進むIoTの市場規模はどれくらい?
介護領域でのIoT市場規模はどれくらいになるのか、調査会社の予測と介護を必要とする方は今後どのように推移していくのかをみてみましょう。
2020年の介護領域でのIoT市場規模は260億円
過去の資料になりますが、調査会社シード・プランニングが公表した「2012年版 ICTにより変化する在宅医療・介護の今後と方向性 ~在宅医療・介護連携、地域包括ケアを推進するシステムの将来展望~」によると、在宅医療・介護関連システムの2020年の市場規模は約260億円と予想されていました。これは、2012年の市場規模と比べて約2.2倍に伸びています。
調査では、在宅医療・介護関連システムを以下の4つに分類して、現在提供されている製品やサービスへの参入企業の動向や戦略などを整理・分析して2020年までの市場規模を予測しています。
- ICTを活用した遠隔医療・介護サービスの提供
- ICTを活用した高齢者見守り
- 在宅医療・介護サービス提供における業務効率化支援
- 在宅医療・介護実施における多職種間の連携、情報共有支援
下のグラフでは高齢者見守りは緩やかに上昇を続ける中で、「遠隔医療・介護サービス」が大きく伸びると予想されているのが特徴的です。

引用:TechTargetジャパン「【市場動向】2020年の在宅医療・介護関連システム市場は約260億円、多職種連携がけん引」
要介護・要支援認定者数は今後も増加
では、介護サービスを必要としている方はどれくらいいるのかを見てみましょう。
公益財団法人生命保険文化センターの資料「介護や支援が必要な人はどれくらい?」によると、2020年度の要介護(要支援)認定者数は約682万人です。これは、公的介護保険制度がスタートした2000年度の認定者数約256万人と比べて約2.66倍に増加していることになります。
要介護(要支援)認定者数の約682万人のうち、最も多いのは要介護1の約140万人です。続いて要介護2の約116万人、要支援1の約96万人、要支援2の約95万人となっています。

引用:公益財団法人 生命保険文化センター「介護や支援が必要な人はどれくらい?」
2040年には約4割が高齢者に
また、総務省統計局が公表している「1.高齢者の人口」によると、総人口に占める高齢者人口の割合は1950年(4.9%)以降上昇が続いており、1985年に10%、2005年に20%を超え、2022年は29.1%となっています。
国立社会保障・人口問題研究所の推計では、この割合は今後も上昇し続け、第2次ベビーブーム期(1971年~1974年)世代が65歳以上となる2040年には35.3%に達すると予想されています。

生命保険文化センターの資料より
介護現場で活躍するIoTの例
では、実際に介護現場で活躍しているIoT製品にはどのようなものがあるのでしょうか。
非接触型センサーとAIカメラで見守りサービス
AIカメラやベッド・シートにセットしたセンサーにより、入居者の活動を検知します。入居者の異常を察知するとすぐに知らせてくれるので、現状では常に緊張を強いられるスタッフのストレスも緩和されるでしょう。
また、AIセンサーとエアコンをセットにすると、温度や湿度を常に快適な状態にしておいたり、入居者の状態を把握したりできます。
膀胱センサーで排泄のタイミングをお知らせ
腹部に超音波センサーを内蔵した装置を装着しておけば、膀胱のふくらみ具合を検知して最適なタイミングでトイレに誘導できます。
おむつを交換するタイミングも知ることができるので、スタッフの負担を軽減でき、入居者の生活の質も向上します。
スムーズな介護記録
介護記録をスタッフが携帯しているタブレットやスマートフォンに記録することで、介護記録のための時間が余分にかかりません。
入居者の状態やケアプランも常に確認できたり、ほかのスタッフと情報を共有したりと時間のロスがなく、介護業務をスムーズに行えます。
介護業界でIoTを促進させる補助金
高齢者人口の増加が続く中で、介護や支援を必要とする方は今後さらに増加することが予測されます。
ところが、介護や支援を必要とする方を支える人材は依然として人手不足なのが現状です。
IoTは、介護サービスで働きやすい環境をつくるために役立ちます。介護領域でのIoT市場は今後も伸びていくことが予想されますが、IoT導入のためには資金が必要です。
介護サービスでの人材の現状とIoT導入のためにどのような補助制度があるかを紹介します。
介護職員は慢性的に人手不足
厚生労働省の「介護人材の確保について」によると、介護職員の離職率は低下傾向にあるものの、依然として産業計と比較するといまだに高い比率を占めていることがわかります。

また、介護職員が慢性的に人手不足である状況が下のグラフから読み取れます。
特に、新規採用が難しいことが人手不足の原因とされています。

サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金
「サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金」は独立行政法人中小企業基盤整備機構および中小企業庁監督のもと一般社団法人サービスデザイン推進協議会が事務局業務を運用しているIoT導入を支援するための補助金制度です。
助成金には以下の3つの枠が設けられています。
- 通常枠(A・B類型)
- セキュリティ対策推進枠
- デジタル化基盤導入枠
たとえば、通常枠では以下のようなスキームになっています。

通常枠(A・B類型)
中小企業・小規模事業者の課題やニーズにあったITツールを導入する経費の一部が補助されます。
ITツールを導入することで業務の効率化や売上の上昇といった経営力の向上・強化を図ることを目的とするものです。
セキュリティ対策推進枠
中小企業・小規模事業者がサイバーインシデントを原因に事業継続が困難になる事態を避けること、サイバー攻撃による被害が供給の制約あるいは価格高騰を引き起こす潜在的なリスクや生産性の向上を阻害するリスクを低減するための助成枠です。
デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)
中小企業・小規模事業者が会計ソフト・受発注ソフト・決済ソフトなどを導入する経費の一部を補助します。
インボイス対応も見据えた企業間取引のデジタル化を推進することを目的としています。
補助対象者
中小企業や小規模事業者のうち、飲食、宿泊、卸・小売、運輸、医療、介護、保育などのサービス業だけでなく、製造業や建設業なども対象です。
補助対象経費(通常枠、デジタル化基盤導入類型)
ソフトウェア購入費やクラウド利用料など幅広く対象になっています。ただし、一部のハードウェアは除かれるため注意しましょう。


申請・導入の3STEP
通常枠では、次のような流れで補助金の交付申請を行います。

引用:IT導入補助金2023「通常枠(A・B類型)について」
交付決定の連絡が届く前に発注や契約・支払いなどを行った場合は補助金が交付されなくなるので注意しましょう。

引用:IT導入補助金2023「申請・手続きフロー」
各都道府県の補助金制度もあり
国が行っている上記のような補助金のほかにも、各都道府県でもIT化に対する補助金制度が設けられています。
厚生労働省では、介護事業者の人材確保に関する事業を支援する目的で、令和5年度予算に137億円を計上しています。都道府県計画をふまえて実施される「参入促進」「資質の向上」「労働環境・処遇の改善」などの目的にかなう事業を支援します。
この予算枠内に、ICT導入支援事業が含まれているのです。
参考:厚生労働省「令和5年度予算案の概要(老健局)の参考資料」
補助金の対象
補助金は、以下などを対象としています。
介護ソフト
記録、情報共有、請求業務で転記が不要なもの、
ケアプラン連携標準仕様、入退院時情報標準仕様、看護情報標準仕様を実装しているもの
情報端末
タブレット端末、スマートフォン端末、インカムなど
通信環境機器
WiFiルーターなど
その他
運用経費としてクラウド利用料、サポート費、研修費、他事業所からの照会対応経費、バックオフィスソフト(勤怠管理、シフト管理など)など
補助の要件
補助を受けるためには、以下のような条件を満たす必要があります。
- 導入計画の作成、2年間の導入効果報告
- PAが実施する「SECURITY ACTION」の「一つ星★」または「二つ星★★」のいずれかを宣言すること
- 以下の事業に積極的に協力すること
- ICTの活用によって経営状況が改善された場合には職員の賃金として還元すること
- LIFEによる情報収集・フィードバックに協力すること
- 他事業所からの照会に対応すること
なお、LIFEとは科学的介護情報システムのことをいいます。
参考:厚生労働省「科学的介護情報システム(LIFE)について」
補助金の額
職員数に応じて都道府県が決定するほか、一定の条件を満たす場合には4分の3を下限に、またそれ以外の場合でも2分の1を下限に都道府県が補助金額が決定されます。
令和5年度の各都道府県の事業例
一部の都道府県では、令和5年度の補助事業が始まっているので確認してみましょう。
都道府県 | 補助事業 |
栃木県 | 介護人材確保対策事業 |
長野県 | 令和5年度ICT導入支援事業の実施について |
三重県 | 高齢者福祉・介護保険:令和5年度介護従事者確保事業費補助金(ICT導入支援事業) |
長崎県 | 【新規募集】介護ロボット・ICT普及促進事業補助金 |
鹿児島県 | 令和5年度介護ロボット及びICT導入予定調査 |
沖縄県 | 令和4年度ICT導入支援事業について |
在宅の介護ではスマートホームサービスが活躍
政府が在宅介護を推進している中で、介護する側される側にはさまざまな不安が予想されます。
ここでは、政府が在宅介護を推進する理由やIoTを活用した高齢者の生活サポートの今後、在宅介護で利用できるスマートホーム機器などについて解説します。
政府は在宅介護を推進
政府は高齢者人口の増加や保険料の増加などの財政事情から、また下記データから国民も在宅介護を希望していることが読み取れるとして在宅介護の推進をはかっています。

厚生労働省「在宅医療・介護の推進について 」
また、在宅介護を推進していく中で、地域での医療・介護の連携が重要なところ、現状では「医師との連携がとりづらい」「業務が多忙で全員のケアプランを十分に作成できない」ことなどが課題とされています。

IoTを活用した高齢者の生活サポートサービスの研究開発
先のような課題を克服するためNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)ではIoT家電やセンサーからライフデータを取得し、高齢者の生活をサポートするサービス基盤の研究開発を行っているところです。
たとえば、IoT・AI技術によって取得した高齢者の生活状況や健康状態、服薬確認などのデータを介護専門職などに提供し、自立支援に向けてのケアプランや支援計画を立てます。
また、24時間の状態確認、緊急時の通知・駆けつけ、多剤服用を抑制することなどから、高齢者の自立した在宅生活を可能にするサービスを創出する研究などが行われています。
在宅介護の負担軽減にスマートホーム化が役立つ
在宅介護をするうえでの不安は、いつも高齢者のそばにいることができない点ではないでしょうか。
介護する方の仕事や離れて暮らさなければならないなど、さまざまな事情があるでしょう。高齢者には認知症への不安もあります。
そのため、在宅介護では日々の見守りやコミュニケーションについてのサポートが重要です。
ここでは、身近なスマートホーム機器がどのように在宅介護に役立つかを紹介します。
スマートリモコン
スマートリモコンを利用すれば、手元のスマートフォンから家中の家電を操作できます。そのため、高齢者が動き回ってけがをするおそれがなくなります。
スマートカメラ
スマートカメラを高齢者の生活する場所に設置しておけば、高齢者の生活状況が一目でわかります。
また、必要なときには声掛けをするなど、コミュニケーションツールとしても利用できます。
各種センサー
廊下やトイレ、ベッドなどにセンサーを設置しておくと、高齢者の動きをセンサーが察知してくれます。温湿度計のセンサーとエアコンを連動させられるため、高齢者の熱中症対策にも利用できて安心です。
ポットや炊飯器、冷蔵庫などにセンサーが付いており、スマートフォンに利用状況を知らせてくれるタイプの場合、高齢者の日々の生活を知ることができて安心です。
スマートロック
スマートロックならドアの開閉がスマートフォンからわかるので、訪問者が来たり夜中に予定外に外出したりしてもすぐにわかります。
また、離れた場所からロックの解除もできるので訪問介護を利用するときでも合鍵を渡さずに外から解錠したり必要なときだけ臨時キーを介護者のスマートフォンに送ったりするような利用もできます。
スマートスピーカー
スマートスピーカーは音声の再生だけでなく、音声でスマートリモコンの役目をしたり音声メモとして利用できたり、天気や交通情報などを調べてくれたりとさまざまな役目を果たしてくれます。
音声でさまざまな機器を操作できるため、スマートフォンやタブレットを使い慣れていない高齢者でも導入しやすいでしょう。
また、スマートスピーカーには画面付きの製品もあるので、画面が付いていればテレビ電話のような利用もできます。
このように、さまざまな機能が期待できるスマートホームですが、導入が比較的簡単なことも利点です。
設置工事は不要で、比較的簡単に設置できるため、古い家でも賃借物件でもスマートホーム化が可能なことがうれしいことです。
スマートホームサービスメーカーに相談しましょう
今回は介護事業などにIoTを導入する際の補助金や在宅介護に利用できるスマートホームについて解説しました。
補助金の利用には面倒な条件や複雑な手続きが必要です。また、介護事業所や自宅をスマートホーム化するにはさまざまなスマートホーム機器がありすぎてどの機器を選べばよいのか悩んでしまう方も多いようです。
スマートホーム機器の中には規格や相性が合わなくて、うまく連携できないことがあります。スマートホーム機器の導入に悩んだらスマートホームサービス提供会社に相談してください。相談される方の状況に最適な提案が可能です。