賃貸物件のセキュリティ対策。大家・管理会社が取り組むべき具体策とは

不動産業界では、たくさんのIoT技術が活用されています。
「モノのインターネット」と呼ばれているIoT技術によって、大家・オーナーや不動産会社が管理している賃貸物件の管理の在り方に変化が起き始めています。
従来であれば、人がやっていた賃貸物件のメンテナンスもIoT技術だけで、人の手を借りずにできるなど、その技術進歩は、私たちの常識そのものを根底から覆す画期的な技術革新です。
その中でも賃貸住宅にとって特に重要なセキュリティ面では、IoT技術はどのように活用されているのでしょうか。
今回は、IoTを活用した「賃貸物件のセキュリティ対策」について解説します。
具体的にIoT技術を活用したセキュリティ対策の活用事例などを交えながら、分かりやすく紹介します。
賃貸物件のセキュリティが注目されている理由
まず、現在の日本社会を取り巻く環境、特に犯罪の傾向を紹介し、なぜ賃貸物件のセキュリティ対策が注目されているか、その社会背景を解説します。
日本の犯罪は減少傾向?
まず日本の犯罪件数の増減について考えてみましょう。
日本経済新聞によると、警察庁が公表した「2020年刑法犯の件数」は前年比17.9%減の61万4303件で、6年連続で戦後最少を更新しました。
刑法犯の認知件数は、戦後最多だった2002年(約285万件)をピークに、防犯カメラの普及など防犯対策の強化が奏功し、年々減少しています。
また、空き巣や住居侵入といった「侵入犯罪」も21.9%減の5万5525件と大幅に減っています。新型コロナウィルス感染症拡大の影響で、自宅滞在時間が長くなり、留守にしている時間が少なくなっているのも、住居侵入犯罪が大きく減少した要因と考えられます。
参考:
日本経済新聞「20年の刑法犯17.9%減 コロナ禍影響、街頭犯罪減少」
住宅侵入窃盗と強盗の発生状況
次に、警察庁の「住まいる防犯110番」を見てみましょう。同ページが公表している2020年の住宅侵入窃盗、住宅侵入強盗発生状況は下記のとおりでした。
住宅侵入窃盗
住宅侵入窃盗は、平成16年から減少しており、2020年は2万1,030件で前年比▲27.3%で減少しています。
しかし、一日当たり約58件発生しており、未だ多くの住宅が被害に遭っています。
侵入窃盗の発生場所は、住宅の割合が全体の50.6%で、うち賃貸住宅などの共同住宅は13.6%です。
住宅侵入強盗
住宅侵入強盗は、平成16年を最多に平成17年からは減少傾向になり、2020年は160件で、前年比▲0.6%減少しています。

しかし、侵入強盗の発生場所は、住宅の割合が全体の39.9%で、うち賃貸住宅などの共同住宅は16%です。賃貸住宅では、毎年、一定数の住宅侵入の被害が出ている状況であることが分かります。
高止まりしているストーカー規制法の検挙数
次に、一人暮らしの方などが狙われるケースが多い、ストーカー被害について見てみましょう。
警察庁「令和2年ストーカー事案及び配偶者からの暴力事案等への対応状況について」によると、2020年のストーカー事案の相談等件数は2万189件でした。
また、同年警視庁が公表しているストーカー規制法の検挙状況等は、警告や禁止命令、ストーカー行為検挙などを合計すると887件に上っています(警視庁「ストーカー事案の概況」より)。

ストーカー規制法に関する検挙等の件数は前年の2019年度よりも100件以上増加しており、高止まりしている状況からも、賃貸物件へのセキュリティを求める声が増加しているようです。
賃貸物件のセキュリティ対策として注目されるIoTツール

賃貸物件に導入されているIoT製品の中でも、セキュリティ関連のものは近年増加しています。では、IoTツールがどのように賃貸物件のセキュリティに使用されているのでしょう。
スマートカメラ(防犯カメラ)
スマートカメラは、インターネットに接続し、スマホなどでリアルタイムに自宅内の様子を映像で確認することができます。
留守番をしている子どもやペットの見守りや外出時の侵入者を確認することが可能です。
ドアホンのカメラをネットワークに接続したり、さらに、防犯カメラとしても使用したりして、どこにいても自宅周辺近辺の様子を知ることができます。
また、スマートカメラは、自分たち家族の生活だけではなく、遠方で一人暮らしをする実家の親や親戚を見守るツールとしても応用が可能です。
スマートロック
スマートロックは、不動産業界で広く普及しているIoTツールの1つです。
オートロック機能だけではなく、入口ドアの開閉履歴、また賃貸物件の入退去時では、これまで使用していたキーのロック機能を完全消去して無効にできるスマートロックシステムなどもあります。
近年では、顔認証や指紋などの生体認証システムを搭載している機種なども開発され、その機能は格段にレベルアップしています。
IoTセンサー
IoTセンサーには、主に開閉センサーと人感センサーの2つのセンサーがあります。
開閉センサーは、磁力センサーなどでドアや窓の開閉状況を感知します。
一方、人感センサーは、人が近づいてきたらライトなどが点灯するIoT照明などで活用されています。
自宅の留守中に、不審者が住居侵入してきた場合、玄関ドア、ベランダ、窓などの開閉センサーや人感センサーがスマホに通知してくれるのです。
防犯・利便性を向上させるIoTマンション

これまで、賃貸物件における集客や差別化を図るため、全世帯に無料Wi-Fi機器を設置する事例がたくさんありました。
現在は、さらに高速通信が可能となった5G回線が広まりつつあります。そうなると、IoT機器を5G接続できるようにして欲しいという入居者ニーズが高まるかもしれません。
また、最近では、大手不動産会社、住宅メーカーなどが積極的にマンションや一戸建て住宅などにIoTツールを導入しています。特に、賃貸物件などには、防犯カメラやスマートロックなどのIoT機器を導入するだけではなく、入居者が所有している家電製品などとの連携可能な独自のプラットフォームを提供する会社も現れています。
後ほど解説しますが、もはや、IoTマンションは集客ツールになりつつあり、今後もその傾向は強まると予想します。
IoTマンションとは
IoTマンションとは、IoT技術を取り入れて、生活の利便性・快適性を向上させたマンションです。
入居者は、スマホなどを使って、家電製品、給湯・空調などの室内設備など簡単に操作して、快適な暮らしをおくることが可能です。
入居者だけではなく、賃貸マンションであれば、廊下、階段、自転車置き場などの共同使用スペースの防犯セキュリティ面の向上が可能になり、賃貸物件オーナーにとってもメリットは大きいです。
賃貸入居者のスマートホームへの関心が高い!
不動産ビックデータでビジネス展開するスタイルアクトは、不動産テックの1つとしてIoTを使ったスマートホーム機能の首都圏の賃貸入居者負担額等を調査した概要を公開しています。
それによると、賃貸住宅入居者のスマートホーム機能の負担額は増える傾向にあり、賃貸入居者からのスマートホームへの関心の高さがうかがえます。
スタイルアクト「首都圏の賃貸物件居住者スマートホームニーズ調査結果」より
空室リスクにも対応できるIoTマンション
今後、賃貸物件のオーナー、不動産会社、不動産管理会社が一番悩むのは、日本の急速に進む人口減少と超少子高齢化社会への対応です。
特に人口減少は、将来に向かって、賃貸住宅入居者そのものが減少することを意味します。賃貸物件のオーナーなどは、「空室リスク」に直面する可能性が高くなります。
これからは、入居者を獲得する競争が激化しすため、所有および管理する賃貸物件についても、顧客に選ばれる賃貸物件になる付加価値を提供しなければなりません。
その1つの手段としてIoT技術を活用したIoTマンションがあります。
IoTへの需要の高まりは前述で紹介したとおりで、賃貸住宅入居者のスマートホーム機能への負担を惜しまない状況でも裏付けされています。
賃貸物件のスマートホーム化は、コストのかかる設備投資かもしれません。
しかし、空率リスクのない賃貸経営を目指す意味でも重要であり、IoTマンションは賃貸物件の中でも、今後ますますニーズが高まるのは間違いありません。
セキュリティ対策や、管理の業務効率化を実現するためにも、賃貸物件のスマートホーム化を検討してはいかがでしょうか。