IoT導入と顧客メリット。デメリットや課題も交えて解説

IoT(モノのインターネット)は、私たちの生活や住環境を大きく変えると期待されている技術です。しかし、導入のメリットがわかりにくく、便利にも関わらず、まだ一般的に知られていないIoT機器がたくさんあります。
今回は様々なIoT機器を導入した場合に、利用者が得られるメリットとデメリットについて解説します。

IoT導入で得られる顧客メリット

まずは機能の面から、IoT導入によって顧客が得られるメリットを紹介します。

遠隔で機器の操作や状況を確認することができる

IoTにはさまざな特徴がありますが、、生活のなかで触れる身近な機器がインターネットに繋がることによって、遠隔で操作することができるようになることが、基礎にあります。

Wi-Fi機能を搭載したIoT家電は、スマホやタブレットで下記のような操作ができます。

  • ロボット掃除機による留守中の掃除状況を確認
  • 洗濯終了を通知
  • 外出先からエアコンをオン・オフ操作
  • 外出先から空気清浄機をオン・オフを操作
  • 出先から冷蔵庫内の食材をカメラチェック etc.

従来ならば帰宅後でなければできなかった作業が、IoTにより外出中でも可能になるのです。

エアコンなどは、外出先から室温調節ができるため、外気に悩まされる季節に重宝します。また、外出時に電化製品の電源オフを忘れても、外出先で電源を切ることが可能なので、機器の電源切り忘れを心配することはなくなります。これらは、賃貸住宅であれば、入居希望者にアピールできるポイントとなります。

外出時だけでなく、音声認識機能を活用して、声で家電を動かしたり、スマホを経由して操作したりできるため、室内で機器を操作する場合にもメリットがあります。

節電や省エネを実現することができる

従来の空調機器は、暖房の温度を少し下げる場合でも機器を手動で調整しなければいけませんでした。IoTに対応した空調機器ならば、AIによる自立制御により無駄のない室温調整をすることができます。

IoTを活用すれば、エネルギー消費量を抑え環境に優しい生活をすることも可能です。このように、生活を便利にするだけなく、無駄をなくすことができるのもIoT導入の大きなメリットでしょう。実際に、コスト削減等の効果が大きい製造業の現場では、家庭よりも導入が大きく進んでいます。

ちなみに、暮らしにおけるIoTの様々なメリットはスマートホームという概念に集約されています。

スマートホームとは、家電や設備機器を配線やWi-Fiなどの通信機器で最適に制御し、生活者のニーズに応じた様々なサービスを提供しようとするものと認識されています。

入居者の暮らしを豊かにし、そして無駄をなくすことがIoT化最大のメリットと考えることができます。

IoT導入のデメリット

IoTの導入メリットをみれば、非導入の物件よりも入居者に喜ばれることは明白です。しかし、IoT導入を検討するなら、デメリットをしっかりと理解しておく必要もあります。

セキュリティリスク

機器がインターネットに接続する以上、サイバー攻撃などによるセキュリティリスクは避けて通れません。

例えば、健康状態をチェックできるフィットネスバンドのように、個人情報や個人の健康状態を扱うIoT家電もあります。これらが流出しないよう、対策をしなくてはなりません。

これまでにIoT機器へのサイバー攻撃が大きな社会問題化した事例はありません。しかし、IoT機器の普及に伴い、悪意のあるハッカーも増えることでしょう。パソコンやスマホでも求められたセキュリティ対策については、新たな技術であるIoTに関しても同じことが言えるのです。

IoT化に対応できる住宅でなくてはならない

住宅がIoT・スマートホームの環境に対応していない場合、IoTを導入が困難なケースもあります。もし物件にIoT機能の導入を検討しているのであれば、新築の場合は設計・デザインの段階から対策をしておくとよいでしょう。

また、物件のIoT化では多くの電気製品が常時コンセントに接続されている状態になります。確実に多くのコンセント口が必要です。

延長コードや電源タップでの対応も可能ですが、下記デメリットからあまりおすすめはできません。

  • 電源タップ等の容量を超える恐れがある
  • たこ足配線となり見た目が悪い

iotのデメリットの解決方法についてはこちらで詳しく紹介しています。
関連記事:IoT機器のデメリットと解決策を解説。安全に使う注意点と製品選びのポイント

IoTの活用事例

IoT技術を上手に活用することで、様々なシーンや業種での生産性の向上やリスク低減などを行うことが可能です。IoTの活用事例について紹介します。

製造業におけるIoTの活用

IoT技術は製造業において、生産性の向上や品質管理の効率化に大きく貢献しています。センサーを活用して機械の稼働状況をリアルタイムで監視することで、予知保全が可能となり、突発的な機械の故障を未然に防ぐことができます。また、生産ラインの自動化や最適化により、人的エラーの削減や生産性の向上が期待できます。

たとえば、自動車製造業では、IoTを活用して生産ラインの効率化を図っています。各工程での作業時間や品質データを収集・分析することで、ボトルネックの特定や工程の改善が可能となります。さらに、供給チェーンの可視化により、在庫管理の最適化や納期の短縮といったメリットも享受できます。

小売・サービス業におけるIoTの活用

小売・サービス業では、顧客満足度の向上や業務の効率化にIoTが寄与しています。小売店舗では、棚に設置したセンサーによって在庫管理を自動化し、欠品を防ぐことができます。また、顧客の行動分析により、店舗レイアウトの最適化や商品陳列の改善に役立てることができます。

飲食業界では、IoTを活用した自動発注システムの導入により、食材の無駄を削減し、コスト削減につなげることができます。また、客席管理システムを導入することで、スムーズな客回転を実現し、売上の向上を図ることも可能です。

農業におけるIoTの活用

農業分野では、IoTの活用により、作物の生育状況の監視や、環境制御の自動化が可能です。センサーを用いて土壌の水分量や温度、日照量などを計測し、最適な水やりや施肥を自動で行うことで、作物の品質向上や収量アップが期待できます。

また、IoTを活用した農業ロボットの導入により、人手不足の解消や作業の効率化が可能となります。ドローンを使った農薬散布や、自律走行する農機具による収穫作業など、様々な場面でIoTが活躍しています。

医療・ヘルスケア分野におけるIoTの活用

医療・ヘルスケア分野では、IoTによる患者の健康管理や遠隔診療などが始まっています。ウェアラブルデバイスを用いて患者のバイタルデータを収集し、異常があれば早期に発見・対応することができます。また、在宅患者の状況をリアルタイムで把握することで、適切な治療やケアを提供することが可能です。

さらに、医療機器をIoTでつなぐことで、効率的な機器管理や予防保全が実現します。手術支援ロボットや、薬剤の自動調剤システムなど、IoTを活用した先進的な取り組みも進められています。

IoTとその他の技術を組み合わせて広がる可能性

IoT技術は、他の様々な技術やサービスと融合することで、さらに便利な活用方法が可能となります。

IoTとAIの融合がもたらす可能性

IoTとAIを組み合わせることで、膨大なIoTデータから有用な情報を抽出し、より高度な判断や制御が可能となります。たとえば、工場の生産ラインでは、AIを活用して製品の品質を自動で検査し、不良品を見つけ出すことができます。また、需要予測にAIを活用することで、在庫の最適化や生産計画の立案に役立てることも可能です。

医療分野では、IoTとAIを活用することで、患者の症状や検査データから疾患を早期に発見し、適切な治療方針を提示することが期待されています。さらに、創薬の分野でも、IoTとAIを用いて膨大な化合物データを解析し、新薬の開発を加速させる取り組みが進められています。

5GによるIoTの高度化

5Gは、高速・大容量、低遅延、多数同時接続という特長を持ち、これによりIoTにおける様々な制約が解消されると期待されています。

自動運転車では、車両間通信や車両と交通インフラの通信において、低遅延かつ高信頼性が求められます。5Gを活用することで、こうした要求を満たし、安全で円滑な自動運転の実現につながります。

また、スマートシティにおいては、多数のセンサーやデバイスがリアルタイムでデータをやり取りする必要があります。5Gの高速・大容量通信により、こうしたデータ通信を効率的に行うことが可能となり、都市運営の最適化や住民サービスの向上が期待できます。

ビッグデータ分析によるIoTデータの活用

IoTデバイスから収集される膨大なデータは、ビッグデータ分析技術を用いることで、ビジネスの意思決定や新たな価値創出に役立てることができます。小売業では、顧客の購買履歴や店舗内の行動データを分析することで、マーケティング施策の最適化や在庫管理の効率化につなげることが可能です。

製造業では、生産ラインから収集したデータを分析し、設備の故障予兆を検知したり、生産効率を上げるための改善点を見つけ出すことができます。また、サプライチェーンの各所から得られるデータを分析することで、需給バランスの調整やリードタイムの短縮など、様々な最適化を図ることが可能となります。

今後解決しなければならないIoTの課題

IoT技術にはクリアしなければならない課題がいくつかあります。

セキュリティやシステムのアップデート

経済産業省と総務省は、インターネットと接続されるIoTの性質上、必要性が高いセキュリティやその情報発信を目的として「IoTセキュリティガイドライン」を公開しています。

先述のように、セキュリティ面はIoTにおいては非常に重要なポイントです。IoT技術を安心して利用するには、パソコンやスマホと同様に起こりうる、下記の問題解決が必須条件になります。

  • コンピュータウィルスの侵入
  • データ改ざん
  • データ流出

また、IoT機器ならではの問題もあります。例えば、遠隔医療やペースメーカーなど、人体に関わるところにIoT技術を導入した場合はどうでしょうか。もしそのシステムに悪意のある攻撃があれば、大きな問題が生じることも明らかです。

したがって、今後のIoT普及に際してセキュリティは重要な課題であるといえます。

また、セキュリティを担保するためにはIoT機器を定期的にアップデートする必要があります。しかし、IoT機器のアップデートはパソコンやスマートフォンほどには簡単ではないと言われます。なぜなら、IoT化された住宅や自動車は、数年~何十年と長期にわたり使用するからです。このような機器の場合、持続性のある更新システムを想定した設計が必要になります。

IoTに精通したエンジニアが不足している

IoT技術の導入で多くの点で利便性は上昇しますが、このシステムを開発・管理するのは人間です。しかし、残念ながらその人材確保は十分とは言えません。むしろ、大幅に不足していると言った方がいいでしょう。

経済産業省は「IT人材の最新動向と将来設計に関する調査結果」で、IT人材は2030年には少なくとも41万人、多ければ79万人の人材不足が起こると予測しています。

IT業界全体でこれだけの人材不足ですから、新技術であるIoT分野が発展すれば、人材不足はさらに深刻となるでしょう。技術だけが先に普及し、生活の基盤となってから、大規模なシステムダウンやセキュリティリスクに社会が振り回されるようではいけません。それを管理する体制をどのようにして整えていくのかが大きな課題となっています。

IoT導入の障壁

IoTの広く普及・導入していくには、いくつかの障壁が存在します。まず、セキュリティの問題が挙げられます。IoTデバイスがハッキングされた場合、重要なデータが流出したり、システムが停止するといった被害が懸念されます。IoTデバイスのセキュリティ対策には十分な注意が必要です。

また、IoTシステムの構築には、専門的な知識やスキルが必要となります。IoT人材の不足は、導入の障壁の一つとなっています。さらに、初期投資や運用コストも無視できない課題です。IoTの導入効果を明確にし、費用対効果を検討する必要があります。

IoTの規格や標準化の動向

IoTの普及には、規格や標準化が重要な役割を果たします。IoTデバイス間の相互接続性を確保し、データの流通を円滑にするためには、共通の規格や標準が必要不可欠です。

2022年10月4日に無線通信規格標準化団体(Connectivity Standards Alliance)がリリースした、「Matter(マター)」は、IoTの共通規格です。

IoTデバイスやサービスが、Matterに対応しているかどうかも、製品を選び重要なポイントになっています。

IoTの今後の展望

IoTは、今後もさらなる発展を遂げると期待されています。5Gの普及により、IoTの適用領域はさらに拡大するでしょう。エッジコンピューティングの進展により、IoTデバイスの処理能力が向上し、よりリアルタイムな制御が可能となります。

また、AIとの融合が進むことで、IoTはより高度な判断や自律的な動作が可能となり、新たな価値創出につながると期待されています。さらに、ブロックチェーン技術を活用することで、IoTデータの信頼性や安全性を高めることも可能となるでしょう。

IoTは、産業の枠を越えて、社会インフラや都市運営、個人の生活にまで浸透していくと考えられます。私たちの生活をより豊かで便利なものにするとともに、社会課題の解決にも貢献するでしょう。IoTの可能性は無限大です。今後のさらなる発展に期待が高まります。