賃貸管理会社による賃料アップ。効果的な方法とは。注意点や手順を紹介

賃貸管理会社による賃料アップ。効果的な方法とは。注意点や手順を紹介
賃貸管理会社による賃料アップ。効果的な方法とは。注意点や手順を紹介

賃貸経営において「賃料の適正化」は、永遠のテーマとも言える重要なポイントです。近年、建築コストの高騰、管理費用の増大、そして都市部を中心とした賃料相場の急速な上昇により、既存物件の賃料見直しは避けて通れない状況となっています。しかし、「賃料を上げたい」という思いとは裏腹に、日本の借地借家法は入居者保護を重視しており、入居中の賃料増額は極めて困難というのが現実です。

では、賃貸管理会社として、どのようにすれば効果的に賃料アップを実現できるのでしょうか。

賃料見直しの背景にある市場環境の変化から、法的制約の理解、そして実践的な賃料アップの方法まで、体系的に解説していきます。

賃貸物件で賃料をアップすべき背景と必要性

市場環境の変化、コスト構造の変動、そして収益性確保の観点から、なぜ今賃料の見直しが求められているのか、その背景と必要性を詳しく見ていきましょう。

賃貸市場・地域相場の変化と賃料水準

「LIFULL HOME’Sマーケットレポート」より

2024年から2025年にかけて、首都圏を中心に賃料は顕著な上昇傾向を示しています。2025年1月版の「LIFULL HOME’Sマーケットレポート」によれば、東京23区のファミリー向き物件では、前年比で13.1%アップの222,603円となり、大幅な賃料上昇が起きています。

「LIFULL HOME’Sマーケットレポート」より

シングル向き物件も史上初めて106,174円(前年同月比11.5%アップ)高い水準で上昇しています。

この上昇傾向は首都圏だけでなく、大阪市や京都市など、主要都市圏全体で見られる現象となっています

このような市場環境の変化は、既存物件の賃料水準が相対的に低位に留まっていることを意味し、適正な賃料への見直しが急務となっています。

管理コスト・維持費上昇と収益性確保

賃料見直しが必要な要因として、物件の維持管理に関わるコストの上昇があります。建築資材の高騰と人件費の上昇は深刻で、特に2024年4月から始まった「時間外労働の上限規制」により、建設業界全体でコスト上昇圧力が強まっています。この状況は今後も継続すると考えられるため、新築物件の賃料が上昇し、既存物件の賃料相場も連動して押し上げる状態になっています。

さらに、設備の老朽化に伴う修繕費用の増加、エネルギーコストの上昇なども重なり、従来の賃料水準では適切な維持管理が困難になりつつあります。

加えて、日銀のマイナス金利政策解除により、今後の金利上昇リスクも考慮する必要があります。現在ローンを利用しながら賃貸経営を行っている投資家にとっては、より負担が増すことに加え、入居者側の住宅購入が困難となり、賃貸市場への需要流入が加速することで、特にファミリー向け物件の賃料上昇圧力が強まる可能性があります。

空室リスク低減

一見逆説的に思えるかもしれませんが、適正な賃料設定は空室リスクの低減にも寄与します。賃料を市場水準に合わせることで、物件の価値を適切に維持し、必要な設備投資や修繕を行うための原資を確保できるからです。

また、賃料の適正化は単なる値上げではなく、物件価値の向上と一体となった取り組みとして考える必要があります。収益改善により得られた資金を設備改善やサービス向上に再投資することで、入居者満足度を高め、結果として安定した賃貸経営を実現できます。

入居中物件の賃料アップは原則困難である理由

賃料アップを検討する際、最も重要な前提となるのが、入居中の物件における賃料増額の困難さです。日本の賃貸借契約は借地借家法により強く保護されており、オーナー側の一方的な意思で賃料を引き上げることは、法的に大きな制約を受けています。

借地借家法による入居者保護の仕組み

借地借家法は、賃借人の居住の安定を図ることを主要な目的として制定されています。賃料の増額請求は可能ですが、それには「土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減」「土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動」「近傍同種の建物の借賃との比較」という要件を満たす必要があり、これらの要件により賃料が「不相当」となったことを立証しなければなりません(参考:借地借家法第三十二条)。

さらに重要なのは、賃料増額請求をされても、借主は増額を正当とする裁判が確定するまでは、自己が相当と認める額(通常は従前の賃料額)を支払えば足りるとされている点です。つまり、オーナーが一方的に賃料増額を通知しても、入居者がそれに同意しない限り、実際の増額は極めて困難なのです。

正当事由がない限り賃料の値上げは難しい

賃料増額が認められるためには、単に周辺相場が上昇したというだけでは不十分で、最終の賃料合意時点から現在までの間に、今の賃料を増額しなければ不公平となるような事情の変更が生じたことを証明する必要があります。しかも、これは新規賃料の問題ではなく、当事者の合意による直近の賃料額が、その後の事情変更により不相当になっているかという「継続賃料」の問題として扱われます。

仮に賃料額が当初から相場より安かったとしても、それは当事者間の合意によるものであり、裁判所は原則としてそこには介入しません。賃料の直近合意時点から、地価の上昇や新規賃料相場の上昇など、現行賃料を合意した際の前提となった経済情勢等に変動が生じている場合に限り、その変動に応じた増額が認められるに留まります。

契約更新時の賃料交渉も、実際には成立しにくい理由

多くのオーナーは契約更新時を賃料見直しのチャンスと考えがちですが、実際にはこの時期の交渉も困難を極めます。借地借家法では、賃貸人が更新拒絶の通知をした上で、更新拒絶に「正当事由」がある場合でなければ、更新について合意が成立しなくても法律上当然に賃貸借契約が同一条件で更新される「法定更新」の制度があります。

正当事由があるといえるためには、賃貸人側が建物の使用を必要としていることを前提に、ほとんどのケースで立退料の提供が必要となります。単に賃料増額に応じないことをもって更新拒絶の正当事由とすることはできません。結果として、入居者が賃料増額に同意しない限り、従前の賃料のまま契約が継続されることになります。

さらに、賃料増減額請求については調停前置とされており、まず簡易裁判所に調停申し立てを行う必要があります。調停で合意がまとまらない場合には、訴訟を提起することになりますが、これには多大な時間とコストがかかります。

賃料を見直す最適なタイミング

入居中の賃料増額が困難であることを踏まえると、賃料見直しの最適なタイミングは空室が発生した時となります。この機会を最大限に活用することが、賃貸経営の収益性向上の鍵となります。

退去後・再募集時に賃料設定を見直すメリット

退去後の再募集時は、法的制約を受けることなく自由に賃料を設定できる唯一のタイミングです。この機会を逃さず、市場相場に見合った適正な賃料設定を行うことが重要です。

また、空室期間中であれば、物件の改修やリノベーションも実施しやすく、賃料アップの根拠となる付加価値の創出が可能です。入居者がいる状態では難しい大規模な工事も、空室時であれば自由に実施できるため、物件価値を大幅に向上させるチャンスとなります。

相場の再確認と、ターゲット層に合わせた価格再設計

空室発生時は、改めて周辺相場を詳細に調査し、物件の適正賃料を見極める絶好の機会です。単に周辺物件の賃料を参考にするだけでなく、ターゲットとなる入居者層のニーズや支払い能力を分析し、戦略的な価格設定を行うことが求められます。

例えば、若年層をターゲットとする場合は、初期費用を抑えつつ月額賃料を適正水準に設定する、ファミリー層向けには教育環境や生活利便性を重視した価値訴求を行うなど、ターゲットに応じた柔軟な戦略が必要です。

単純な値上げよりも「バリューアップ」で競争力を高める

賃料アップを成功させるためには、単なる値上げではなく、物件価値の向上を伴う「バリューアップ」が不可欠です。入居希望者に「この物件なら高い賃料を払う価値がある」と感じてもらえる具体的な価値創出が求められます。

リフォーム・リノベーションによる価値向上

物件の魅力を高める最も効果的な方法の一つが、リフォームやリノベーションです。特に水回りの設備更新、内装の刷新、間取りの変更などは、物件の印象を大きく変え、賃料アップの強力な根拠となります。

最近のトレンドとして、在宅勤務に対応したワークスペースの設置、収納力の向上、キッチン設備の充実などが注目されています。これらの改修により、同じ立地条件でも競合物件との明確な差別化が図れます。

スマートホーム化・IoT導入で利便性を高める

IoT技術を活用したスマートホーム化は、賃貸物件の付加価値向上策として大きな注目を集めています。スマートロックやネットワークカメラ、ワイヤレスモニター付きドアホンの設置はセキュリティ性と利便性を向上させ、特にセキュリティ意識の高い入居者から高い評価を得ています。

実際、オートロック機能は人気設備ランキングの「この設備があれば周辺相場より家賃が高くても入居が決まる」で単身者2位、ファミリー世帯3位となっており、スマートロックにグレードアップすることで賃料アップが可能になります。

デザイン・設備の改善で家賃上昇に納得感を持たせる

物件のデザイン性向上も、賃料アップの重要な要素です。エントランスや共用部の改修、外壁の塗装、照明の LED化など、物件全体の印象を向上させる取り組みは、入居希望者に「価値に見合う家賃」という納得感を与えます。

特に最近では、サステナビリティを意識したエコフレンドリーな設備、ペット共生型の設計、防音性能の向上など、現代のライフスタイルに対応した改善が求められています。これらの改善により、単なる住居から「快適な生活空間」へと物件の位置づけを変えることができます。

賃料アップを成功させるための具体的な方法・手順

賃料アップを実現するためには、戦略的なアプローチと綿密な準備が必要です。市場分析から始まり、適正な賃料設定、そして効果的な募集戦略まで、各段階で押さえるべきポイントを詳しく解説します。

現状賃料と相場のギャップを調べる

まず第一に行うべきは、現在の賃料と市場相場との乖離を正確に把握することです。公益財団法人東日本不動産流通機構や各種不動産情報サイトが公表している賃料データを活用し、エリア別、間取り別、築年数別の詳細な相場分析を行います。

データ収集の際は、単純な平均値だけでなく、物件の個別要因を考慮することが重要です。駅からの距離、建物の構造、設備の充実度、管理状態など、賃料に影響を与える要因を総合的に評価し、物件の適正賃料レンジを導き出します。また、過去数年間の賃料推移も確認し、上昇トレンドの強さや今後の見通しも把握しておく必要があります。

入居者特性・物件条件を分析して適正賃料を設定

賃料設定においては、ターゲットとなる入居者層の特性を深く理解することが不可欠です。単身者向け、カップル向け、ファミリー向けでは、求められる設備や立地条件が異なり、支払い可能な賃料レンジも変わってきます。

また、賃料設定の際は、初期費用とのバランスも考慮する必要があります。敷金・礼金を抑えて月額賃料を高めに設定する、フリーレント期間を設けて実質的な年間賃料を調整するなど、総合的な収益最適化を図ります。

募集戦略と広告表現で「価値に見合う家賃」を伝える

適正な賃料設定ができても、その価値を入居希望者に適切に伝えられなければ、成約には至りません。物件の魅力を最大限に引き出し、賃料の妥当性を納得してもらうための募集戦略が重要となります。

設備改善やIoT導入を訴求するキャッチコピー

「お家時間の充実化」をコンセプトとした物件では、居室の家電操作や室内の温度制御が簡単に行える、共用エントランスのオートロックが顔認証とアプリにより解錠できる、住戸玄関ドアもスマートロックによりアプリで施錠・解錠が可能といった具体的な利便性を強調することで、高い賃料設定でも入居希望者の関心を集めています。

募集広告では、「次世代スマートホーム」「IoT完備の先進的な暮らし」「セキュリティと利便性を両立」といったキャッチコピーを活用し、物件の付加価値を明確に伝えることが効果的です。特に、具体的な生活シーンを想起させる表現により、入居後の快適な生活をイメージしてもらうことが重要です。

ビフォーアフター写真・動画で視覚的に伝える

リフォームやリノベーションを実施した物件では、ビフォーアフター写真を活用することで、物件価値の向上を視覚的に訴求できます。特に最近では、動画コンテンツの活用が増えており、360度カメラによるバーチャル内見、ドローンを使った周辺環境の紹介など、立体的な情報提供が可能になっています。

SNSやYouTubeなどのプラットフォームも積極的に活用し、物件の魅力を多角的に発信することで、より多くの入居希望者にリーチできます。特に若年層をターゲットとする場合は、デジタルマーケティングの重要性がさらに高まります。