空室リスク対策に有効な対策とは?やってはいけない空室対策もあわせて紹介


賃貸住宅経営において、空室リスクは収益性を左右する最重要課題です。日本賃貸住宅管理協会が2024年に発表した「日管協短観」によると、2023年度における賃貸住宅の平均入居率は委託管理で94.2%、サブリースで97.0%でした。
一見高い数値に見えますが、裏を返せば平均5〜6%の空室が常に存在しているということであり、オーナーにとっては無視できない機会損失となっています。
空室が発生する根本的な原因を分析し、効果的な対策方法を具体的に解説します。同時に、一見合理的に見えても実は逆効果となる「やってはいけない空室対策」についても紹介します。
空室が発生する主な原因
空室問題を解決するには、まずその原因を正確に把握することが不可欠です。多くの場合、空室は単一の要因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発生しています。ここでは主要な6つの原因について詳しく見ていきましょう。
立地・地域特性のミスマッチ
物件の立地は賃貸需要を左右する最も基本的な要素です。駅からの距離、周辺の商業施設、教育機関、医療機関などへのアクセスは、入居者の意思決定に直接的な影響を与えます。特に単身者向け物件では駅徒歩10分以内が一つの基準となり、ファミリー向けでは学区や生活環境が重視される傾向にあります。
また、地域の人口動態も重要な要素です。東京都心部のような人口流入が続くエリアと、地方都市の人口減少エリアでは、賃貸需要の基礎条件が根本的に異なります。
競合物件・供給過多
賃貸住宅市場では、エリアごとに需給バランスが存在します。特に新築物件が集中的に供給されるエリアでは、一時的な供給過多により既存物件の空室率が上昇する傾向があります。
供給増加が必ずしも空室増につながるわけではありませんが、周辺の競合状況を常に注視する必要があります。
家賃・賃料設定の不適切さ
家賃設定は入居率に直結する重要な要素です。周辺相場を無視した高い家賃設定は、入居希望者の検討対象から外れる原因となります。しかし、単純に家賃を下げれば良いというものでもありません。適正な家賃とは、物件の立地、築年数、設備、周辺相場を総合的に勘案して決定されるべきものです。
近年は賃貸情報サイトで簡単に周辺物件と比較できるため、入居希望者の相場観は以前より鋭くなっています。市場の動向を定期的にモニタリングし、柔軟に家賃を見直していく姿勢が求められます。
物件魅力の劣化・設備不足
築年数の経過とともに、物件の競争力は自然と低下していきます。外観の劣化、設備の老朽化、時代のニーズに合わない間取りなどが、入居希望者の選択肢から外れる要因となります。
特に設備面では、入居者のニーズは年々高度化しています。かつては贅沢品と考えられていたエアコンや温水洗浄便座、独立洗面台などは、今や標準装備として認識されています。さらに最近では、宅配ボックス、無料インターネット、防犯カメラなどの有無が物件選びの重要な判断材料となっています。
募集・広告力の弱さ
どれだけ良い物件でも、適切に情報発信されなければ入居者は集まりません。現在の賃貸市場では、大手賃貸情報サイトへの掲載が基本となっていますが、写真の質や物件紹介文の充実度によって問い合わせ数は大きく変わります。
特に写真は極めて重要です。暗い室内写真や、角度の悪い外観写真では、物件の魅力が半減してしまいます。プロのカメラマンによる撮影や、室内の清掃・整頓を徹底した上での撮影など、第一印象を左右する要素に投資することが重要です。
管理・運営の問題
物件管理の質も入居率に大きく影響します。共用部の清掃が行き届いていない、設備の故障対応が遅い、入居者からのクレームへの対応が不適切といった管理上の問題は、既存入居者の退去を招くだけでなく、口コミを通じて新規入居希望者にもネガティブな印象を与えます。
また、管理会社との連携不足も問題です。空室情報の共有が遅れる、内見対応がスムーズでない、契約手続きに時間がかかるといった運営上の非効率は、せっかくの入居希望者を逃す原因となります。
空室リスクを抑える対策・方法

空室の原因を理解したところで、次は具体的な対策方法について見ていきましょう。効果的な空室対策は、物件の状況や市場環境に応じて複数の施策を組み合わせることが重要です。
募集対応強化
まずは物件情報の露出を最大化することから始めましょう。大手賃貸情報サイトへの複数掲載は基本ですが、それだけでは不十分です。物件の魅力を最大限に伝えるためには、高品質な写真、詳細な物件説明、周辺環境の情報、交通アクセスの詳細など、入居希望者が知りたい情報を網羅的に提供する必要があります。
また、SNSを活用した情報発信も効果的です。InstagramやX(旧:Twitter)などで物件の魅力的な写真や動画を発信することで、従来の賃貸情報サイトでは接触できなかった潜在的な入居希望者にアプローチできます。特に若年層をターゲットとする場合、このようなデジタルマーケティングの重要性は増しています。
仲介対応強化
不動産仲介会社との良好な関係構築は、空室対策の要です。仲介会社は複数の物件を扱っているため、彼らに自分の物件を優先的に紹介してもらえる関係を作ることが重要です。
具体的には、仲介会社への物件情報の迅速な提供、内見時の柔軟な対応、広告料の適切な設定などが挙げられます。また、定期的に仲介会社を訪問し、市場動向や入居希望者のニーズについて情報交換を行うことも効果的です。仲介会社から見て「紹介しやすい物件」「対応が良いオーナー」という評価を得ることが、結果的に空室期間の短縮につながります。
管理運営対応の改善
管理品質の向上は、既存入居者の満足度を高め、長期入居を促進するだけでなく、新規入居者獲得にも直結します。共用部の定期清掃、設備の予防保全、入居者からの要望への迅速な対応など、基本的な管理業務を確実に実施することが重要です。
また、管理会社との定期的なミーティングを通じて、物件の状況や市場動向を共有し、改善点を協議することも効果的です。管理会社は複数の物件を扱っているため、他の物件での成功事例や市場のトレンドについて有益な情報を持っています。このような情報を活用することで、より効果的な空室対策を実施できます。
設備更新・リフォーム・改善投資
築年数が経過した物件では、設備更新やリフォームが空室対策として有効です。ただし、費用対効果を慎重に検討する必要があります。全面的なリノベーションは高額になるため、優先順位をつけて段階的に実施することが現実的です。
特に効果が高いとされるのは、水回りの更新、壁紙・床材の張り替え、照明のLED化などです。これらは比較的コストを抑えながら、物件の印象を大きく改善できます。また、宅配ボックスの設置、インターネット無料化、防犯カメラの設置など、入居者のニーズが高い設備への投資も効果的です。
スマートホーム化・IoT導入による差別化
近年注目されているのが、スマートホーム技術やIoT機器の導入による物件の差別化です。認知度は高まっているものの、まだ導入物件は限られているため、先行者利益を得られる可能性は十分にあります。
具体的には、スマートロック、スマートリモコン、ネットワークカメラ、スマートスピーカーなどが代表的なIoT機器です。これらを導入することで、「スマートホーム対応物件」「IoTマンション」といった付加価値を訴求でき、特にテクノロジーに関心の高い若年層や、利便性を重視する入居者層にアピールできます。
家賃・初期費用の最適化
家賃設定の最適化は、ダイレクトに空室率に影響する施策です。ただし、単純な値下げではなく、戦略的なアプローチが必要です。例えば、閑散期には一時的にキャンペーン家賃を設定する、長期契約者には家賃を据え置く、逆に短期契約の場合は割増料金を設定するなど、状況に応じた柔軟な価格戦略が有効です。
また、初期費用の見直しも重要です。敷金・礼金の減額やゼロ化、仲介手数料の負担、フリーレント期間の設定など、初期費用を抑えることで入居のハードルを下げることができます。特に引っ越しシーズン以外の閑散期には、このような施策が効果を発揮します。
【要注意】やってはいけない空室対策
空室対策には効果的な方法がある一方で、短期的には効果があるように見えても、長期的には物件価値を毀損したり、収益性を悪化させる「やってはいけない対策」も存在します。ここでは特に注意が必要な5つのポイントについて解説します。
安易な家賃値下げのリスク
空室が続くと、つい家賃を下げたくなるものです。確かに家賃の値下げは即効性のある施策ですが、安易な値下げには大きなリスクが伴います。
まず、一度下げた家賃を再び上げることは非常に困難です。市場環境が改善しても、既存入居者との公平性から家賃を上げにくく、結果として長期的な収益性が低下します。また、極端な値下げは「何か問題がある物件なのではないか」という疑念を入居希望者に抱かせる可能性もあります。
さらに重要なのは、物件評価額への影響です。不動産の評価は賃料収入に基づいて算出されるため、家賃の引き下げは直接的に物件価値の低下を意味します。将来の売却や借り換えを考える際に、この影響は無視できません。
費用対効果を無視した大規模リフォーム
「空室が続くからリフォームしよう」という発想自体は正しいのですが、費用対効果を十分に検討せずに大規模なリフォームに踏み切ることは危険です。
例えば、築30年の物件に1000万円をかけて全面リフォームしたとしても、その投資を家賃上昇で回収できる保証はありません。周辺の新築物件との競争を考えれば、どれだけリフォームしても築年数というハンディキャップは残ります。
効果的なリフォームとは、最小限の投資で最大限の効果を得られる改修です。入居者のニーズを正確に把握し、優先順位の高い部分に絞って投資することが重要です。水回りの更新や内装の一新など、見た目の印象を大きく変える部分に集中投資する方が、費用対効果は高くなる傾向があります。
入居条件の無条件緩和によるリスク
空室を早く埋めたいあまり、入居審査基準を安易に緩和することも危険です。収入が不安定な入居者、過去にトラブル歴のある入居者を受け入れることで、短期的には空室は解消されるかもしれませんが、長期的には家賃滞納や近隣トラブル、物件の劣化など、より深刻な問題を引き起こす可能性があります。
特にペット可物件への変更は慎重に検討すべきです。確かにペット需要は一定程度存在しますが、退去後の原状回復費用の増大、臭いや騒音のトラブル、ペット不可を希望する入居者層を失うデメリットなど、総合的に判断する必要があります。
管理会社・仲介会社任せの運営
「プロに任せておけば大丈夫」という考えは危険です。確かに管理会社や仲介会社は不動産のプロフェッショナルですが、彼らは複数の物件を扱っており、必ずしもあなたの物件を最優先にしてくれるとは限りません。
オーナー自身が市場動向を理解し、物件の状況を把握し、管理会社と定期的にコミュニケーションを取ることが不可欠です。「任せきり」ではなく「協働」の姿勢が、効果的な空室対策につながります。
また、管理会社の提案を鵜呑みにするのではなく、セカンドオピニオンを求めることも重要です。複数の管理会社や仲介会社から意見を聞き、最適な戦略を自分で判断する姿勢が求められます。
単発の対策で終わらせてしまう
空室対策は一度実施すれば終わりというものではありません。市場環境は常に変化しており、入居者のニーズも時代とともに変わっていきます。一度効果があった施策も、時間の経過とともに効果が薄れることがあります。
PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を回し続けることが重要です。定期的に物件の状況をモニタリングし、市場動向を分析し、必要に応じて施策を見直していく継続的な取り組みが、長期的な入居率の維持につながります。
将来を見据えた差別化戦略・トレンド対応が重要
空室対策は目先の問題への対処だけでなく、中長期的な視点での戦略的アプローチが求められます。特に人口減少社会において、賃貸住宅市場は構造的な変化を迎えており、これらのトレンドを理解し対応することが競争力の維持につながります。
入居者ニーズの変化と最新トレンド
コロナ禍を経て、入居者のニーズは大きく変化しました。テレワークの普及により、住宅に求められる機能が変わっています。単に寝るだけの場所から、仕事もできる快適な生活空間へとニーズがシフトしています。
具体的には、作業スペースとして使える部屋の広さ、高速インターネット環境、防音性能、宅配ボックスなどの需要が高まっています。また、健康志向の高まりから、日当たりの良さや換気性能なども重視されるようになっています。
さらに、環境意識の高まりにより、省エネ性能やエコ設備への関心も増しています。LED照明、高効率エアコン、太陽光発電など、環境配慮型の設備は今後ますます重要になるでしょう。
空き家政策・法制度変化と地域施策
国や地方自治体による空き家対策も活発化しています。空き家対策特別措置法の施行により、管理不全の空き家に対する規制が強化される一方、空き家の有効活用を促進する補助金制度なども整備されつつあります。
また、地域によっては独自の空き家バンク制度や、リノベーション補助金制度を設けているケースもあります。これらの制度を活用することで、改修費用の負担を軽減しながら物件の競争力を高めることが可能です。
制度の詳細は地域によって異なるため、所在地の自治体に問い合わせることをお勧めします。
差別化戦略としての訴求ポイント
供給過多の市場で生き残るためには、明確な差別化戦略が必要です。「この物件ならではの価値」を明確にし、それを効果的に訴求することが重要です。
差別化のポイントは物件によって異なりますが、立地の利便性、独自の設備、充実した共用施設、優れた管理サービス、コミュニティ形成の仕組みなど、様々な切り口が考えられます。重要なのは、ターゲットとする入居者層のニーズに合致した差別化を図ることです。
例えば、単身者向け物件であれば利便性や設備の充実を、ファミリー向けであれば安全性や教育環境を、高齢者向けであればバリアフリーや見守りサービスを、それぞれ重点的にアピールすることが効果的です。
中古物件/築古物件での強み構築
築年数が経過した物件は、新築物件に対して不利な立場に置かれがちです。しかし、適切な戦略により、築古であることをデメリットではなく特徴として活用することも可能です。
例えば、リノベーションによって独自性の高い空間を作り出す、周辺環境の成熟度をアピールする、新築より割安な家賃設定を武器にするなど、様々なアプローチがあります。
また、IoT機器の導入により、築古物件でも最新の利便性を提供することができます。スマートホーム化は、物件の築年数に関わらず実施できる差別化施策として注目されています。前述のように、スマートホーム市場は急成長しており、早期に導入することで「先進的な物件」という印象を与えることができます。
中古物件であっても、適切な投資と戦略により、十分な競争力を維持することは可能です。重要なのは、物件の特性を正確に理解し、それに合った最適な戦略を立案・実行することです。




