IoT活用におけるセキュリティ対策を解説。事例や対策も紹介

IoTセキュリティ
IoTセキュリティ

私たちの生活や産業のあらゆる場面でIoT(Internet of Things)機器が活用されるようになった現代。スマートホームデバイスから産業用センサー、医療機器まで、ネットワークにつながるデバイスは急速に普及しています。しかし、便利さの裏には常にセキュリティリスクが潜んでいます。本記事では、IoT活用におけるセキュリティの重要性、実際に起きたインシデント事例、そして効果的な対策について解説します。

IoTセキュリティの重要性とリスク

GSMA(GSM Association)の予測によると、2025年までに世界中で接続されるIoTデバイスの数は約250億台に達するとされています。

GSMA(GSM Association)
GSMA(GSM Association)の調査より

これほど多くのデバイスがネットワークに接続される状況において、適切なセキュリティ対策を講じなければ、私たちの生活や社会インフラは深刻なリスクにさらされることになります。

IoT機器を標的としたサイバー攻撃の増加傾向

近年、IoT機器を狙ったサイバー攻撃は急増しています。チェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーのレポートによると、インターネット接続デバイスを狙ったマルウェアやハッキングの試みが世界規模で拡大傾向にあります。

チェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーのレポート
チェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーのレポートより

地域別の分析では、欧州の企業組織が最も深刻な状況に直面しており、週単位で見ると1つの組織あたり平均70件程度のIoT機器への不正アクセス試行が確認されています。このようなサイバー脅威の増加パターンは、業界や地理的な境界を超えて広範囲に観測されている状況です。

IoT機器がセキュリティ被害にあった場合のリスク

IoT機器がセキュリティ侵害を受けた場合、その影響は単にデバイス自体の問題にとどまらず、接続されたシステム全体、さらには社会インフラにまで波及する可能性があります。

情報漏洩のリスク

スマートホームデバイスからは居住者の生活パターンや個人情報が漏洩する恐れがあり、産業用IoTからは企業の機密情報や知的財産が流出する可能性があります。医療IoTデバイスからの患者情報漏洩は、プライバシー侵害だけでなく、法規制違反にもつながりかねません。

システム乗っ取りのリスク

攻撃者がIoTデバイスの制御を奪取すると、スマートホームシステムのドアロック解除や監視カメラの無効化、工場の生産ライン停止など、物理的なセキュリティが侵害される危険があります。

サイバー攻撃への悪用(ボットネット等)

侵害されたIoTデバイスは、ボットネットを形成し、分散型サービス拒否(DDoS)攻撃、スパム配信、暗号通貨のマイニングなどに悪用されます。

IoT機器のセキュリティが脆弱な理由

限られた処理能力とリソース

多くのIoTデバイスは、サイズ、コスト、電力消費の制約から、限られた処理能力とメモリしか持っていません。このため、高度な暗号化や複雑なセキュリティプロトコルの実装が困難な場合があります。

セキュリティ対策の不足

市場投入までの時間短縮やコスト削減の圧力により、十分なセキュリティテストや対策が実施されないまま製品化される例が多く見られます。具体的な問題点としては、デフォルトのパスワード、通信の暗号化不足、認証メカニズムの欠如、セキュアなアップデート機能の不備などが挙げられます。

長期利用による陳腐化

IoTデバイスは長期間にわたって使用される一方で、ファームウェアのアップデート機能が限られていたり、メーカーがサポートを終了した古いデバイスがセキュリティ上の脆弱性を抱えたまま使用されるという問題もあります。

代表的なIoTセキュリティインシデントと事例

Miraiマルウェア攻撃とその影響

2016年に発生したMiraiマルウェア攻撃は、IoTセキュリティの脆弱性を世界に知らしめた象徴的な事件です。この攻撃は、IPカメラ、DVR、ホームルーターなどのIoTデバイスを標的とし、最盛期には60万台以上のデバイスがボットネットに組み込まれました。

Miraiボットネットによる最も有名な攻撃は、2016年10月のDyn社のDNSサービスに対するDDoS攻撃で、Twitter、Amazon、Netflix、Spotifyなど多くの主要インターネットサービスが一時的に利用できなくなりました。

この事件から得られる主な教訓は以下の通りです。

デフォルト設定の危険性

多くのIoTデバイスが出荷時のデフォルトパスワードで使用されていたことが、Miraiの急速な拡散を可能にしました。

相互接続性のリスク

インターネットの相互接続性により、一部のシステムの脆弱性が広範囲に影響を及ぼす可能性が示されました。

セキュリティ意識の欠如

製造業者からエンドユーザーまで、IoTセキュリティに対する意識の低さが浮き彫りになりました。


IoT機器が狙われやすいポイント

  1. 脆弱なデフォルト設定:弱いパスワードや不要なサービスが有効のまま
  2. 更新メカニズムの欠如:セキュリティパッチが適用されない
  3. 暗号化の不備:通信やストレージの暗号化が不十分
  4. 認証メカニズムの脆弱性:多要素認証の欠如やセッション管理の不備
  5. サプライチェーンの脆弱性:サードパーティ製コンポーネントの管理不足
  6. 物理的なアクセス制御の欠如:無人環境での物理的なアクセス制御不足

IoTセキュリティガイドラインの概要

総務省・経済産業省による「IoTセキュリティガイドライン」

日本では、総務省および経済産業省が共同で「IoTセキュリティガイドライン」を策定し、IoTシステム・サービスのセキュリティを確保するための指針を提供しています。

5つの段階(方針、分析、設計、構築・接続、運用・保守)

1. 方針の策定:セキュリティポリシーの策定、セキュリティ目標の設定、リスク許容度の定義、セキュリティ管理体制の構築など、基本方針を策定します。

2. 分析:保護すべき資産の特定、想定される脅威とリスクの分析、ユースケースとリスクシナリオの作成、対応すべきセキュリティ要件の特定を行います。

3. 設計:セキュアなシステムアーキテクチャの設計、セキュリティコントロールの選定と設計、認証・認可メカニズムの設計、通信プロトコルのセキュリティ設計を実施します。

4. 構築・接続:セキュアなコーディング手法の適用、必要なセキュリティコントロールの実装、デフォルト設定のセキュリティ強化、セキュリティテストの実施を行います。

5. 運用・保守:セキュリティ監視・ログ管理、インシデント対応計画の整備、脆弱性情報の収集と対応、セキュリティパッチの適用、定期的なセキュリティ評価・監査を継続的に実施します。

セキュリティ要件適合評価・ラベリング制度(JC-STAR)

IPA(情報処理推進機構)主導による「IoTセキュリティ要件適合評価・ラベリング制度(JC-STAR)」は、IoT機器のセキュリティレベルを可視化し、消費者や企業がセキュアな製品を選択できるようにすることを目的としています。

制度の目的と効果

この制度は、消費者への情報提供、製造業者の意識向上、市場メカニズムの活用、社会全体のセキュリティレベル向上を目指しています。セキュリティが高い製品が市場で評価される環境を作ることで、結果として接続されるIoT機器全体のセキュリティを向上させることが期待されています。

評価基準と評価プロセス

JC-STARの評価基準は、国際的なセキュリティ基準(ETSI EN 303 645など)を参考にしながら、日本の環境に適した形で策定されています。評価項目には、デフォルトパスワードの変更要求、セキュアなソフトウェア更新メカニズムの実装、セキュアな通信の確保、個人データの保護、脆弱性報告の体制、セキュアなシステム設計と実装などが含まれます。

評価プロセスは、製造業者による自己宣言、認定第三者機関による評価、IPAによる認証という流れで行われます。評価結果に基づいて、製品には基本レベル、中級レベル、高度レベルのセキュリティラベルが付与されます。

国際的なIoTセキュリティ基準との連携

日本のIoTセキュリティガイドラインは、国際的な基準と整合性を保ちながら策定されています。

主要な国際基準

米国のNIST Cybersecurity Frameworkは「特定」「防御」「検知」「対応」「復旧」の5つの機能から構成され、重要インフラのセキュリティ向上を目的としています。欧州のENISAガイドラインは、データ保護とプライバシーに重点を置いており、GDPR(EU一般データ保護規則)との整合性を重視しています。

国際標準化機構(ISO)と国際電気標準会議(IEC)が共同で開発したISO/IEC 27400シリーズは、IoTセキュリティの包括的な国際規格として位置づけられています。

日本独自の特徴

日本のガイドラインは、これらの国際基準の考え方を取り入れつつ、日本の法規制環境(個人情報保護法、サイバーセキュリティ基本法など)に合わせた内容となっています。また、日本の主要産業(製造業、自動車産業など)のニーズに合わせた特別な考慮事項や、リソースが限られた中小企業でも実施可能な段階的アプローチを提供している点が特徴です。

効果的なIoTセキュリティ対策の実装

技術的な対策

強固な認証システムの実装

多要素認証(MFA)の導入により、パスワードだけでなく、生体認証やワンタイムパスワードなどの複数の認証要素を組み合わせます。デバイス固有の証明書を用いた相互認証により、なりすましを防止することも重要です。

暗号化の強化

通信データの暗号化には、TLS 1.3以上の最新プロトコルを使用し、保存データについてもAES-256などの強力な暗号化アルゴリズムを適用します。暗号鍵の管理は、ハードウェアセキュリティモジュール(HSM)や信頼できる実行環境(TEE)を活用して行います。

セキュアブート機能

デバイス起動時に、ファームウェアの完全性を検証するセキュアブート機能を実装することで、マルウェアの感染や不正なファームウェアの実行を防止します。

ネットワークセグメンテーション

IoTデバイスを専用のネットワークセグメントに配置し、重要なシステムとの間にファイアウォールを設置することで、侵害の拡大を防止します。

SHODAN検索エンジンとIoT機器の脆弱性発見

IoTデバイスのセキュリティを考える上で重要なのが、SHODAN(ショーダン)と呼ばれる検索エンジンの存在です。SHODANは「インターネットに接続されたデバイスの検索エンジン」とも呼ばれ、世界中のインターネットに接続されたデバイスを検索・発見するツールです。

SHODANの仕組みと機能

SHODANは、インターネット上のデバイスをスキャンし、それらのデバイスから返されるバナー情報を収集します。これにより、特定のタイプのデバイスや特定の脆弱性を持つデバイスを検索することが可能になります。例えば、特定のポートが開いているデバイス、特定のアプリケーションを実行しているデバイス、特定の地理的場所にあるデバイスなどを検索できます。

SHODANが明らかにしたIoTセキュリティの現状

SHODANの存在により、多くのIoTデバイスが適切なセキュリティ対策なしにインターネットに接続されている現状が明らかになりました。2018年の調査では、SHODANを通じて発見された産業用制御システムの多くが、パスワード保護なしでインターネットからアクセス可能な状態であることが判明しました。

また、SHODANを使った調査により、以下のような問題が明らかになっています:

  • デフォルトパスワードのままのデバイスが多数存在する
  • 重要なセキュリティパッチが適用されていないデバイスが多い
  • 認証なしでアクセス可能な監視カメラやインダストリアルコントロールシステムが存在する
  • 暗号化されていない通信を行うデバイスが多数ある

SHODANは、セキュリティ研究者や企業のセキュリティ担当者が脆弱性を発見するために利用される一方で、悪意を持った攻撃者によっても利用される可能性があるツールです。このため、組織は自社のネットワークとデバイスの可視性を高め、定期的なネットワークスキャンと監視を行うことが重要です。