IoTモニタリングとは?導入メリットと活用事例を解説

医療現場で活用が進むモニタリング技術
医療現場で活用が進むモニタリング技術

近年、多くの産業でデジタル化が進む中、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)技術を活用したモニタリングシステムが注目されています。製造業を中心に、効率化やコスト削減、遠隔監視などさまざまな目的でIoTモニタリングの導入が進んでいます。本記事では、IoTモニタリングの基本から導入メリット、実際の活用事例まで解説します。

IoTモニタリングの基本知識

IoTモニタリングは、生産設備や環境条件など様々な対象をセンサーで計測し、インターネットを通じてデータを収集・分析するシステムです。工場の機械稼働状況から農場の土壌状態まで、これまで人間が確認していた多くの作業を自動化できる技術として普及が進んでいます。

IoTモニタリングの定義と仕組み

IoTモニタリングとは、各種センサーやデバイスを使って物理的な状態や挙動を計測し、そのデータをネットワーク経由で収集・分析するシステムです。基本的な仕組みは次のような流れで構成されています。

  1. センシング:各種センサーで温度、湿度、振動、電力消費量などの物理量を測定
  2. データ送信:測定したデータを有線または無線通信でゲートウェイに送信
  3. データ収集・蓄積:クラウドやオンプレミスのサーバーでデータを集約・保存
  4. 分析・可視化:AIや統計的手法でデータを分析し、ダッシュボードなどで可視化
  5. アラート・制御:異常検知時の通知や、条件に応じた機器の自動制御

このサイクルにより、常時監視が必要な対象の状態をリアルタイムで把握し、異常の早期発見や予防保全が可能になります。

モニタリング対象とデータ種類

IoTモニタリングの対象は多岐にわたります。主な対象とそこから得られるデータの種類は以下のとおりです。

設備・機械

  • 稼働状態(ON/OFF、運転モード)
  • 生産数・加工時間
  • 振動・音・温度などの異常検知データ
  • 消費電力・エネルギー効率

環境条件

  • 室温・湿度
  • 照度・騒音
  • 空気質(CO2濃度、有害物質)
  • 気象データ

製品・材料

  • 製品品質データ
  • 在庫状況
  • トレーサビリティ情報
  • 材料消費量

これらのデータは、生産性向上や品質管理、エネルギー最適化など様々な用途に活用できます。特に製造業では、機械の稼働状況や生産効率を数値化することで、工場全体の最適化に役立てることができます。

製造業におけるIoTモニタリングのメリット

製造業においてIoTモニタリングを導入することで、多くのメリットが得られます。単なる「見える化」だけでなく、データを活用した意思決定や業務改善につなげることが重要です。

設備稼働率向上と業務効率化

IoTモニタリングを導入することで、工場内の設備稼働状況をリアルタイムで把握できるようになります。

設備稼働率の向上 機械の非稼働時間や停止原因を正確に把握することで、稼働率を向上させるための対策を講じることができます。例えば、頻繁に発生する小さなトラブルや段取り替え時間の長さなど、これまで見過ごされていた非効率な部分を特定し、改善することが可能になります。

予防保全の実現 機械の振動や温度などのデータから異常の前兆を検知し、故障が発生する前に対処することで、計画外の停止を減らすことができます。これにより、修理コストの削減だけでなく、生産計画の安定化にもつながります。

作業効率の向上 作業者の動きや各工程にかかる時間を可視化することで、無駄な動きや待機時間を特定し、作業手順の最適化が図れます。また、熟練作業者のノウハウをデータとして蓄積し、標準化することも可能になります。

遠隔監視による働き方改革

IoTモニタリングによる遠隔監視機能は、製造業における働き方改革を促進する重要な要素となっています。

24時間監視の自動化 これまで人が常駐して行っていた設備の監視作業を自動化することで、夜間・休日の人員配置を最適化できます。異常発生時のみアラートで通知することで、必要な時だけ対応すれば良くなります。

リモートワークの実現 工場の設備状況をインターネット経由で確認できるため、必ずしも現場にいなくても状況把握や意思決定ができるようになります。これにより、管理者や技術者の働き方の幅が広がり、複数拠点の管理も効率化できます。

技術者の負担軽減 熟練技術者の知見をシステムに組み込むことで、経験の浅いスタッフでも適切な判断や対応ができるようになります。また、トラブル発生時も遠隔からアドバイスが可能になり、技術者の移動時間や負担を削減できます。

データ活用によるコスト削減と利益向上

IoTモニタリングから得られる膨大なデータは、適切に分析することでコスト削減や収益向上につながります。

エネルギー消費の最適化 設備ごとの電力消費量や稼働パターンを分析することで、エネルギー使用量の無駄を特定し、削減することができます。例えば、待機電力の多い設備や、ピーク時間帯の使用を分散させるなどの対策が可能になります。

品質向上によるロス削減 製造条件と製品品質の相関関係を分析することで、不良品発生の原因を特定し、品質向上につなげることができます。これにより、材料ロスや手直し作業の削減が実現します。

生産計画の最適化 実際の生産能力や工程にかかる時間を正確に把握することで、より精度の高い生産計画を立てることができます。これにより、納期遅延や過剰在庫などのリスクを低減し、キャッシュフローの改善にもつながります。

データに基づく投資判断 設備の実際の稼働状況や生産性データに基づいて、新規設備投資の判断や優先順位付けができるようになります。限られた予算を最も効果の高い分野に投資することで、投資対効果を最大化できます。

IoTモニタリングシステムの構築ポイント

IoTモニタリングシステムを構築する際には、目的に合わせた適切な設計が重要です。センサーの選定から通信方式、データの分析手法に至るまで、様々な要素を検討する必要があります。

センサ選定と通信方式

IoTモニタリングシステムの基盤となるのがセンサーと通信方式です。用途や環境に合わせた適切な選択が重要です。

センサーの種類と選定ポイント

モニタリングの目的に合わせて、適切なセンサーを選ぶ必要があります。主なセンサーの種類と選定ポイントは以下の通りです。

  • 温度センサー:測定範囲、精度、応答速度
  • 振動センサー:検出軸数、測定周波数帯域
  • 電力センサー:測定電流範囲、サンプリング速度
  • 画像センサー:解像度、フレームレート、耐環境性

センサーを選ぶ際には、測定精度だけでなく、工場環境での耐久性(防塵・防水性能、耐熱性)や長期安定性も重要な検討要素です。また、設置のしやすさやメンテナンス性も考慮する必要があります。

通信方式の選択

センサーからデータを送信するための通信方式は、環境や用途に応じて適切なものを選択します。

  • 有線通信(イーサネット、RS-485など):安定性が高く、大容量データに適していますが、配線工事が必要です。
  • 無線通信(Wi-Fi、Bluetooth、LoRaWANなど):配線工事が不要で柔軟な設置が可能ですが、電波環境や電源確保が課題となります。
  • モバイル通信(4G/5G):広範囲での利用や遠隔地のモニタリングに適していますが、通信コストがかかります。

通信方式を選ぶ際には、データ量、通信頻度、設置環境、通信の安定性、セキュリティなどを総合的に検討することが重要です。

データ集約・可視化・分析手法

収集したデータを価値ある情報に変換するためには、適切なデータ処理と分析が必要です。

データ集約プラットフォーム

センサーから送られてくるデータを集約・管理するプラットフォームには、クラウド型とオンプレミス型があります。

  • クラウド型:初期投資が抑えられ、拡張性が高いが、通信コストやセキュリティ面での考慮が必要。
  • オンプレミス型:初期投資は大きいが、通信遅延が少なく、機密性の高いデータ管理に適している。

企業の規模や目的、既存システムとの連携などを考慮して、適切な方式を選択することが重要です。

データ可視化ツール

収集したデータを現場で活用するためには、直感的に理解できる可視化が重要です。

  • リアルタイムダッシュボード:現在の状況を一目で把握できるよう、グラフや図表で表示。
  • トレンド分析ツール:時系列データを分析し、傾向や異常を発見するためのグラフ表示。
  • アラート機能:しきい値を超えた場合に通知する機能。

可視化ツールは、現場作業者から経営層まで、それぞれの目的に合わせた表示方法を提供することが理想的です。

データ分析手法

収集したデータから価値を引き出すためには、目的に応じた分析手法を選択する必要があります。

  • 統計的分析:平均値や標準偏差などを用いた基本的な分析。
  • 機械学習:パターン認識や予測モデルの構築による高度な分析。
  • リアルタイム分析:即時の判断が必要な場合のストリーム処理。

分析手法を選ぶ際には、分析の目的(異常検知、予測、最適化など)と、必要なレスポンス速度(リアルタイム性)を考慮することが重要です。

既存設備対応システムの選び方

多くの製造現場では、新旧様々な設備が混在しています。IoTモニタリングシステムを導入する際には、既存設備との接続性やデータ収集方法を検討する必要があります。

既存設備からのデータ収集方法

設備の種類や年代によって、データ収集方法は異なります。

  • 直接接続:最新の設備はイーサネットなどの標準インターフェースを備えていることが多く、直接データを取得できます。
  • PLC経由:多くの生産設備はPLC(Programmable Logic Controller)を備えており、これを介してデータを収集できます。
  • 外付けセンサー:古い設備や通信機能のない設備には、外付けセンサーを取り付けてデータを収集します。

システム選定の際のポイント

IoTモニタリングシステムを選ぶ際には、次のポイントを確認することが重要です。

  • 既存設備との接続性:様々な機器やプロトコルに対応しているか
  • 拡張性:将来的な設備増設や機能追加に対応できるか
  • カスタマイズ性:自社の業務フローや要件に合わせた調整が可能か
  • サポート体制:導入後の保守や技術サポートが充実しているか

特に異なるメーカーや年代の設備が混在する工場では、様々な接続方式に対応できる柔軟性の高いシステムが求められます。

産業別IoTモニタリング活用事例

工場でのモニタリングの様子

IoTモニタリングは様々な産業で活用されています。それぞれの業界特有の課題に対して、どのように対応しているのか、具体的な事例を見ていきましょう。

製造業:工作機械監視システム

製造業では、特に工作機械の監視にIoTモニタリングが広く活用されています。具体的な事例を見てみましょう。

自動車部品メーカーの事例

ある自動車部品メーカーでは、複数の工場に点在する数百台のCNC工作機械にIoTモニタリングシステムを導入しました。各機械に取り付けたセンサーから稼働状況、加工条件、振動データなどを収集し、クラウド上で一元管理しています。

食品加工メーカーの事例

食品加工メーカーでは、製造ラインの温度・湿度管理と生産数のカウントにIoTモニタリングを活用しています。HACCP対応のための記録作業を自動化するとともに、生産効率の改善にも役立てています。

導入前は紙の記録用紙に手書きで温度などを記録していましたが、システム導入後はセンサーが自動的に計測・記録するようになりました。これにより、記録作業の工数削減だけでなく、データの信頼性向上や異常時の即時アラート機能により、食品安全性の向上も実現しています。

農業・物流・医療分野での応用

IoTモニタリングは製造業だけでなく、様々な産業で活用されています。それぞれの業界での具体的な応用例を見てみましょう。

農業分野での活用

農業では、環境モニタリングと作物の生育管理にIoT技術が活用されています。

ハウス内の温度・湿度・日照・CO2濃度などをセンサーで常時監視し、最適な環境制御を行うケースや、土壌水分センサーを用いた自動灌水システムにより、作物に必要な量だけ水を供給する仕組みなどが構築されています。

また、蓄積されたデータと収穫量・品質の相関を分析することで、さらなる収量向上につながる知見も得られています。

物流分野での活用

物流業界では、配送物の位置情報や状態監視にIoTモニタリングが活用されています。

温度管理が必要な医薬品や食品の輸送コンテナにGPS・温度センサーを設置し、リアルタイムで位置情報と温度データを監視するといったもので、温度が設定範囲を外れた場合は即座にアラートが発信され、対応が取れる仕組みになっています。

また、倉庫内の在庫管理にもIoT技術を活用しており、商品にRFIDタグを取り付けることで、在庫状況のリアルタイム把握や棚卸作業の効率化を実現しています。

医療分野での活用

医療分野では、患者モニタリングや医療機器管理にIoT技術が応用されています。

入院患者のバイタルサインを無線センサーで連続的に測定し、看護ステーションでモニタリングするシステムなどがあります。患者の異変を早期に検知できるだけでなく、看護師の巡回業務効率化にも貢献しています。

また、医療機器の位置管理や使用状況の把握にもIoTモニタリングが活用されています。高額な医療機器にRFIDタグを取り付け、位置情報と使用状況を記録することで、適切な資源配分や保守計画の立案に役立てています。