Matter対応のスマートロックを解説。導入メリットや活用シーンを解説

スマートホームデバイスの急速な普及に伴い、様々なメーカーやプラットフォームが独自の規格を展開してきました。その結果、異なるブランドのデバイス同士が連携できないという互換性の問題が長らくスマートホーム市場の課題となっていました。そんな中、新たな共通規格として注目を集めているのが「Matter」です。特にセキュリティの要となるスマートロックにおいて、Matter対応製品が徐々に増加しています。

Matterとは何か、スマートロックにおけるMatter対応のメリット、活用シーンから導入方法までを解説します。

Matterとは

まず、Matterとは何か、その基本的な概念から理解していきましょう。多くのスマートホームユーザーがプラットフォーム選びに悩む中、Matter規格は大きな解決策となる可能性を秘めています。

スマートホームの新規格「Matter」の概要

Matter（マター）は、スマートホーム機器の互換性を実現するために開発された新しい接続規格です。2019年に「Project CHIP（Connected Home over IP）」として始まったこのプロジェクトは、2021年に「Matter」として正式名称が決定しました。この規格の最大の特徴は、Apple、Google、Amazon、Samsungなどの大手テック企業が共同で開発に参加していることです。

Matterは、Wi-Fi、Thread、Ethernet、Bluetoothといった既存の通信技術をベースとしながら、それらを統合する共通言語を提供します。これにより、異なるメーカーやプラットフォームのデバイスが互いに通信できるようになるのです。言わば、スマートホームデバイスの「共通語」と考えることができるでしょう。

異なるスマートホームプラットフォームを連動する仕組み

Matterが革新的なのは、その仕組みにあります。従来のスマートホームシステムでは、例えばApple HomeKit対応デバイスはHomeKitのシステム内でしか動作せず、Google Home対応デバイスはGoogle Homeのシステム内でしか動作しませんでした。

しかしMatter対応デバイスは、異なるプラットフォーム間での相互運用性を実現します。具体的には、Matter対応のスマートロックであれば、AppleのHomeKit、GoogleのGoogle Home、AmazonのAlexa、Samsungの SmartThingsなど、様々なプラットフォームから操作できるようになります。

この仕組みは「マルチアドミン機能」と呼ばれ、1台のデバイスを複数のプラットフォームで管理できるようにします。例えば、家族の一人がiPhoneを使い、もう一人がAndroidを使っている場合でも、同じMatter対応スマートロックを両方のスマートフォンから操作できるのです。

スマートロックのMatter対応メリット

Matter対応のスマートロックを導入することで、ユーザーはどのようなメリットを得られるのでしょうか。Matter規格がスマートロックに与える具体的なメリットについて詳しく見ていきます。

異なるスマートホームシステムとの互換性

Matter対応のスマートロックの最大のメリットは、やはり異なるシステムとの互換性です。

Matter対応のスマートロックであれば、AppleのHomeKit、GoogleのGoogle Home、AmazonのAlexa、SamsungのSmartThingsなど、主要なスマートホームプラットフォームすべてで操作できるようになります。スマートフォンのOSが混在していても、同じスマートロックを全員が問題なく使用できるのです。

また、将来的にスマートフォンを買い替える際にも、異なるOSに移行したとしても、既存のスマートロックをそのまま継続して使用できるという安心感があります。

Matter Over Wi-Fiの利点

Matterは様々な通信プロトコルをサポートしていますが、中でもWi-Fiを利用した「Matter Over Wi-Fi」には大きな利点があります。

まず、多くの家庭ではすでにWi-Fiルーターが設置されているため、追加のハブやブリッジデバイスを購入する必要がないケースが多いです。これにより、初期導入コストを抑えることができます。

また、Wi-Fi接続であれば、インターネット経由でどこからでもスマートロックの状態確認や操作が可能です。外出先から「鍵をかけ忘れたかも」と心配になった時も、スマートフォンでリモート確認・操作ができるため安心です。

さらに、Wi-Fiは比較的広い範囲をカバーできるため、大きな家でも安定した接続を維持しやすいという利点もあります。

スマートロックの活用シーン

Matter対応のスマートロックは、日常生活のさまざまなシーンで活躍します。ここでは、具体的な活用シーンと、それによってもたらされる便利さを紹介します。

「鍵のかけ忘れ」の心配を解消

外出時に「鍵をかけ忘れたかも…」と不安になった経験は誰にでもあるでしょう。特に急いでいる時や、子どもの世話で手一杯の時など、うっかり鍵のことを忘れてしまうことがあります。

Matter対応のスマートロックがあれば、そんな心配は無用です。スマートフォンのアプリを開くだけで、どこからでも鍵の状態をリアルタイムで確認できます。施錠されていなければ、アプリからワンタップで遠隔施錠できるので安心です。

また、多くのスマートロックには自動施錠機能も搭載されています。例えば「ドアを閉めてから30秒後に自動施錠」といった設定ができるため、うっかり鍵をかけ忘れるリスクを大幅に減らすことができます。

Matter対応であれば、Siri、Google Assistant、Alexaといった各種音声アシスタントと連携して「鍵はかかっている？」と尋ねることもできます。この機能は、就寝前の最終確認などでも役立つでしょう。

外出時に鍵・スマホを持たずに解錠

Matter対応のスマートロックの多くは、スマートフォンの接近を検知して自動的に解錠する「オートアンロック」機能を備えています。これにより、両手に荷物を抱えている時でも、スマートフォンをポケットやバッグに入れたままで玄関のドアを開けることができます。

また、暗証番号を入力するテンキーパッドを備えたモデルもあります。この場合、スマートフォンを持っていなくても、設定した暗証番号を入力するだけで解錠できます。ジョギングや近所へのちょっとした買い物など、鍵もスマートフォンも持ちたくないシーンで特に役立ちます。

家族や友人、家事代行サービスなどに一時的にアクセス権を付与することも可能です。例えば、来客がある予定の日に、特定の時間帯だけ有効な暗証番号を発行したり、その人のスマートフォンにだけ一時的なアクセス権を付与したりできます。これにより、物理的な鍵を複製して渡す必要がなく、セキュリティリスクを最小限に抑えることができます。

カーテンや照明など他のスマートデバイスとの連携例

Matter対応のスマートロックの魅力は、他のスマートホームデバイスとの連携にもあります。様々なデバイスと組み合わせることで、より便利で快適な生活を実現できます。

例えば、スマートロックとスマートライトを連携させれば、帰宅時に鍵を解錠すると同時に、自動的に玄関や廊下の照明がついてくれます。夜間の帰宅時に暗い家に入るストレスを軽減できるでしょう。

また、スマートカーテンと連携させることで、朝起きて鍵を解錠すると同時にリビングのカーテンが開き、自然光で部屋が明るくなるといった演出も可能です。

スマートスピーカーと連携すれば、帰宅時に「ただいま」と話しかけるだけで、鍵が解錠され、照明がつき、お気に入りの音楽が流れるといった一連のアクションを自動化することも可能です。

Matter規格の強みは、異なるメーカーのデバイス同士でも連携できることです。例えば、AppleのHomeKit環境で管理しているスマートロックと、Google Homeで管理しているスマートライトを連携させるようなことも可能になります。

スマートロックの導入方法

Matter対応のスマートロックを自宅に取り入れるにあたって、どのような導入方法があるのでしょうか。スマートロックの設置から運用までの基本的な流れと、導入時のポイントについて紹介します。

要工事・工事不要の製品を選ぶ

スマートロックというと、専門業者による複雑な工事が必要と思われがちですが、実際には既存の鍵に後付けできる製品も多く販売されています。

工事が必要な製品は、見栄えも綺麗でデザインも洗練されたものが多いです。一方で、後付けの製品の場合は誰でも簡便にスマートロックを導入できるというメリットがあります。

ハブの必要性と選び方

Matter対応のスマートロックを導入する際、ハブ（ブリッジ）が必要かどうかは製品によって異なります。Matter Over Wi-Fi対応の製品であれば、家庭内のWi-Fiルーターに直接接続できるため、追加のハブは不要な場合が多いです。

一方、Matter Over Threadを採用している製品の場合は、ハブが必要になります。

Matter規格の利点の一つは、将来的には様々なブランドのハブでMatter対応デバイスが制御できるようになる点です。これにより、ハブの選択肢が広がり、ユーザーにとってより自由度の高いスマートホーム構築が可能になります。

対応している鍵のタイプと確認方法

スマートロックを購入する前に、自宅のドアや鍵が対応しているかを確認することが非常に重要です。日本の住宅で使用されている主な鍵のタイプとスマートロックの対応関係は以下の通りです。

シリンダー錠（ディスクシリンダー）

最も一般的な鍵のタイプで、多くの後付けタイプのスマートロックに対応しています。鍵穴が丸い形状をしているのが特徴です。日本の住宅で最もよく見られるタイプであり、ほとんどのスマートロックメーカーが対応製品を提供しています。

シリンダー錠（ピンシリンダー）

海外製のドアに多いタイプで、一部のスマートロックに対応しています。日本では比較的新しいマンションやオフィスビルで採用されることが増えてきました。鍵の形状が平たく、複雑な切り込みがあるのが特徴です。

サムターン（つまみ）

ドアの内側にある、鍵を回すためのつまみ部分です。後付けタイプのスマートロックは、このサムターンの形状や大きさに依存するため、確認が必要です。一般的な円形のサムターンだけでなく、レバー型や特殊な形状のものもあり、対応するスマートロックが限られる場合があります。

電気錠

マンションのオートロックなど、すでに電気で制御されている錠前は、専用のスマートロック製品や、管理会社の許可が必要な場合があります。既存のシステムとの互換性や権限の問題もあるため、導入前に十分な確認が必要です。

賃貸物件での導入ポイント

賃貸物件にスマートロックを導入する場合は、いくつかの追加的な注意点があります。

まず、大前提として管理会社や大家への確認が必要です。スマートロックの多くは、ドアや鍵自体に恒久的な改造を加えないため、原状回復が可能です。この点を説明した上で、導入の許可を得るようにしましょう。

取り付け跡が残らない製品の選択

賃貸物件では、ドアに穴を開けたり、ねじ止めしたりする必要がない製品を選ぶことが重要です。多くのメーカーが賃貸向けのソリューションを提供しており、専用のアダプターやマウントを使用して、ドアに恒久的な変更を加えずに設置できるよう設計されています。

簡単に取り外せる製品の重要性

退去時に簡単に取り外して原状回復できる製品を選びましょう。工具不要で取り外せる設計の製品や、取り外した後に目立つ跡が残らないものが理想的です。契約終了時のトラブルを避けるためにも、この点は特に重要です。

既存の鍵との併用可能性

スマートロックが故障した場合や電池切れの際に、従来の物理鍵でも開閉できる製品を選ぶことをおすすめします。システムに問題が生じても確実に出入りができるためです。特に賃貸物件では、管理会社が緊急時にアクセスできることも重要な要素です。

ドア本体を保護する設計

粘着テープや挟み込み式など、ドア本体を傷つけない取り付け方法の製品がおすすめです。最近の製品では、3M製の高品質粘着テープを使用したり、特殊なクリップで固定したりするなど、ドアを傷つけずに強固に固定できる工夫がされています。

なお、一部のスマートロックメーカーでは、賃貸物件向けの専用製品やオプションを提供している場合もあります。例えば、ドアに穴を開けずに取り付けられる専用ブラケットや、3M製の剥がせる粘着テープを使用した取り付けキットなどです。

Matter対応のスマートロックは、今後より多くの製品が登場することが予想されます。導入を検討する際は、自宅の環境との互換性をしっかり確認した上で、適切な製品を選択することが成功の鍵となるでしょう。