医療業界でのIoT活用を解説。IoTによって可能になる新しい医療とは


私たちの生活のあらゆる場面でデジタル化が進む中、医療分野も例外ではありません。特に注目を集めているのが、IoT(Internet of Things)技術の医療への応用です。患者さんの健康管理から、医療機関の業務効率化まで、IoTは医療の未来を大きく変えようとしています。
医療IoTの基本概念から具体的な活用事例などについて解説していきます。
医療IoT(IoMT)とは
医療分野におけるIoTの活用は、近年急速に注目を集めています。ここでは、医療IoT(IoMT)の基本的な概念と、その特徴について詳しく見ていきましょう。
医療IoTの定義
医療IoT(Internet of Medical Things、IoMT)とは、医療機器やセンサーをインターネットに接続し、データを収集・分析することで、医療サービスの向上や効率化を図る技術のことを指します。
医療IoTの主な特徴は以下の通りです。
1. リアルタイムデータ収集
患者の健康状態を24時間365日モニタリングできます。
2. データの一元管理
複数の医療機器から得られたデータを統合し、包括的な分析が可能です。
3. 遠隔医療の実現
離れた場所にいる患者の状態を把握し、適切な医療サービスを提供できます。
4. 予防医療の推進
日常的な健康データの分析により、疾病の早期発見や予防が可能になります。
医療IoTの市場動向
医療IoT市場は急速に拡大しており、今後も成長が見込まれています。デロイトトーマツの調査によると、医療分野におけるIoT関連の国内市場規模の予測は、2025年には1,685億円になると予測されており、2016年から10年で2.2倍に拡大します。

デロイトトーマツの調査より
医療分野での業務効率化や業務改善に加え、様々な可能性の期待が高まっていることが分かります。
データ活用による診断精度の向上
医療IoTの導入により、膨大な医療データの収集と分析が可能になります。これらのデータを活用することで、診断精度の向上や新たな医学的知見の獲得が期待されています。
例えば、多数の患者から収集された健康データをAIで分析することで、特定の疾患の早期発見に役立つ兆候を見つけ出すことができます。また、遺伝子データと生活習慣データを組み合わせて分析することで、個々の患者に最適な治療法を選択する「精密医療」の実現にも貢献します。
さらに、臨床試験においても、IoTデバイスを活用することで、より正確で包括的なデータ収集が可能になります。これにより、新薬の開発や治療法の改善が加速することが期待されています。
医療IoT導入の課題とデメリット
医療IoTは多くの可能性を秘めていますが、その導入には様々な課題やデメリットも存在します。ここでは、主要な4つの課題について詳しく解説します。
セキュリティリスク
医療IoTにおいて、セキュリティは最も重要な課題の一つです。医療データは極めて機密性の高い個人情報であり、その漏洩は患者のプライバシーを著しく侵害する可能性があります。
医療IoTデバイスは、以下のようなセキュリティリスクにさらされています。
- データ盗難
- デバイスの乗っ取り
- データの改ざん
- マルウェア感染
これらのリスクに対処するためには、強固な暗号化技術の導入、定期的なセキュリティアップデート、多要素認証の導入など、包括的なセキュリティ対策が必要です。また、医療従事者向けのセキュリティ教育も重要です。
プライバシー保護の問題
医療IoTの普及に伴い、個人の健康データがこれまで以上に詳細かつ大量に収集されるようになりました。これにより、プライバシー保護の問題が浮上しています。
例えば、ウェアラブルデバイスが収集する位置情報や活動データは、個人の生活パターンを明らかにする可能性があります。また、遺伝子データなどの機微な情報が漏洩した場合、保険加入や雇用に影響を与える可能性も懸念されています。
医療機関や企業は、患者のプライバシーを最大限に尊重しつつ、データの有効活用を図るバランスの取れた対応が求められます。
導入コストと人材不足
医療IoTシステムの導入には、多額の初期投資が必要です。高性能なIoTデバイス、セキュアなネットワークインフラ、データ分析システムなど、多岐にわたる設備投資が必要となります。特に中小規模の医療機関にとっては、この導入コストが大きな障壁となる可能性があります。
また、医療IoTシステムの運用・管理には、医療の知識とIT技術の両方に精通した人材が必要です。しかし、このような専門性の高い人材は不足しており、多くの医療機関が人材確保に苦心しています。
既存システムとの統合
多くの医療機関では、すでに電子カルテシステムや医療機器管理システムなどが導入されています。新たに医療IoTシステムを導入する際には、これらの既存システムとの統合が大きな課題となります。
システム間のデータ形式の違いや、通信プロトコルの互換性の問題など、技術的な課題が多く存在します。また、既存システムのベンダーロックインにより、新システムの導入が困難になるケースも少なくありません。
医療IoTの活用事例

医療IoTは、すでに様々な形で実用化されています。ここでは、代表的な活用事例を4つ紹介します。
ウェアラブルデバイスによる健康管理
ウェアラブルデバイスは、医療IoTの中でも特に普及が進んでいる分野です。スマートウォッチやフィットネストラッカーなどのデバイスを使用することで、日常的な健康管理が可能になっています。
例えば、Apple Watchは心電図(ECG)機能を搭載し、不整脈の早期発見に役立っています。また、Fitbitのデバイスは睡眠時無呼吸症候群のリスク評価に活用されています。
これらのデバイスで収集されたデータは、スマートフォンアプリと連携して視覚化され、ユーザーに分かりやすく提示されます。さらに、医療機関と連携することで、遠隔での健康管理や疾病の早期発見にも活用されています。
遠隔診療・モニタリングシステム
IoTを活用した遠隔診療・モニタリングシステムは、特に慢性疾患患者の管理に大きな効果を発揮しています。
例えば、糖尿病患者向けの遠隔モニタリングシステムでは、以下のような機能が提供されています。
- 血糖値の自動記録と医療機関へのデータ送信
- インスリン投与量の自動調整
- 食事や運動の記録と分析
- 医師からのフィードバックや指導
COVID-19のパンデミック以降、ビデオ通話を利用した遠隔診療も急速に普及しました。IoTデバイスと組み合わせることで、バイタルサインの測定や簡単な検査を遠隔で行うことも可能になっています。
高齢者を見守る製品についてはこちらで詳しく紹介しています。
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スマート病院の実現
IoTの導入により、病院全体をスマート化する取り組みも進んでいます。
例えば、RFID技術(ICタグを活用した自動認識技術)を活用した患者の位置情報管理システムでは、患者の動きをリアルタイムで把握し、緊急時の迅速な対応や、効率的な動線管理が可能になります。
また、医療機器にIoTセンサーを取り付けることで、使用状況や保守管理の効率化が図られています。これにより、機器の稼働率の向上や、不必要な保守コストの削減が実現しています。
スマート薬剤管理システムでは、IoTデバイスを活用して薬剤の在庫管理や投薬ミスの防止を行っています。例えば、電子タグ付きの薬剤ボトルと連携したスマート薬剤棚を使用することで、リアルタイムでの在庫管理や、誤投薬の防止が可能になっています。
AI診断支援システム
IoTデバイスで収集された大量のデータを、AIを用いて分析することで、診断の精度向上や業務効率化が図られています。
画像診断の分野では、特にAI診断支援システムの導入が進んでいます。胸部X線写真やCT画像の解析において、AIが異常部位を自動検出し、放射線科医の診断をサポートしています。これにより、見落としのリスクが低減され、診断の精度が向上しています。
また、電子カルテシステムと連携したAI診断支援システムも開発されています。このシステムは、患者の症状、検査結果、既往歴などのデータを総合的に分析し、可能性の高い疾患や推奨される検査・治療法を提案します。これにより、医師の意思決定支援や、診断プロセスの効率化が図られています。
さらに、IoTデバイスから収集された日常的な健康データをAIで分析することで、疾病の早期発見や予防にも活用されています。例えば、ウェアラブルデバイスで収集された心拍変動データをAIで分析し、心臓病のリスクを予測する研究が進められています。







